大阪公立大学(大阪公大)、京都大学(京大)、東京大学(東大)、理化学研究所(理研)、大阪電気通信大学(大阪電通大)、信州大学(信大)、神奈川大学の7者は11月24日、米国ユタ州で稼働中の最高エネルギー宇宙線観測実験「テレスコープアレイ実験」において、2021年5月27日、1991年に検出された史上最高記録の320エクサ電子ボルト(EeV)の宇宙線「オーマイゴッド粒子」に次ぐ、244EeV(2.44×1020eV)という極めて高いエネルギーを持った宇宙線の検出に成功し、「アマテラス(天照)粒子」と命名したことを共同で発表した。
同成果は、京大 白眉センター/京大大学院 理学研究科の藤井俊博特定助教(現・大阪公大大学院 理学研究科/南部陽一郎物理学研究所 准教授)、大阪公大の常定芳基教授、東大 宇宙線研究所(ICRR)の荻尾彰一教授、同・﨏隆志准教授、同・佐川宏行シニアフェロー、理研 開拓研究本部の樋口諒基礎科学特別研究員、同・木戸英治研究員、同・長瀧重博主任研究員(理研 数理創造プログラム 副プログラムディレクター兼任)、大阪電通大 工学部の多米田裕一郎准教授、信大 工学部/航空宇宙システム研究拠点の冨田孝幸助教、神奈川大 工学部の池田大輔特別助教、同・有働慈治准教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米科学雑誌「Science」に掲載された。
宇宙線は、宇宙最高クラスの極めてエネルギーが高いものになると、地上最大の粒子加速器での到達エネルギーよりも7桁以上も大きい100EeVを超えるものもある。その発生源としては、ガンマ線バースト、活動銀河核中心の大質量ブラックホール、もしくはそこから吹き出すジェット、マグネターなどと推測されている。
宇宙線は、地球大気に突入すると多数の二次粒子を生成し、「空気シャワー」と呼ばれる粒子群になって地表に降り注ぐ。極めてエネルギーが高い場合は100億にも及ぶ粒子となり、直径約10kmの範囲に広がるという。その空気シャワーは、地表に数km間隔で複数台の粒子検出器を並べると、マイクロ秒程度の時間差で検出され、各自で検出された信号の大きさと時間差から、大元の宇宙線の到来方向とエネルギーを推定することが可能だ。
そのような方法を用いて、ユタ州の砂漠地帯で2008年から行われている宇宙線に関する実験が、テレスコープアレイ実験で、3m2の面積を持つ検出器を約1.2kmの間隔で計507台設置し、700km2の範囲に到来する極高エネルギー宇宙線の定常観測を実施中だ。そして同実験によって、2021年5月27日午前4時35分56秒(現地時間)に捉えられたのが、今回の244EeVの宇宙線である。
研究チームによれば、23台もの検出器が信号を捉えたことからも、極めて高いエネルギーの宇宙線であることがわかったとのこと。大元の宇宙線の到来方向とエネルギーが算出されたが、求められた到来方向には有力な候補天体は発見されず、天の川銀河近傍の宇宙大規模構造において、「ローカルボイド(局所的空洞)」の方向から到来していることがわかったとしている。
これまで宇宙線の具体的な発生源としては、ブラックホールが直接撮像された巨大銀河「M87」や、星形成が非常に活発な銀河「M82」などが候補天体とされていたが、どちらとも異なる方向だった。また、これまでのテレスコープアレイ実験では、おおぐま座の方向から多くの宇宙線が到来していることが捉えられていたが、それとも異なっていたという。そのため、未知の天体現象や「ダークマターの崩壊」といった標準理論を超えた新物理起源の可能性も示唆されたとする。
なお今回観測された宇宙線は、史上最高エネルギーの320EeVの宇宙線の名称が「オーマイゴッド粒子」であること、発見者が日本人であること、現地時間の明け方に検出されたこと、今後もさらにこのような極めて高いエネルギーを持った第二、第三の宇宙線の検出が期待されることから、研究チームによって「アマテラス(天照)粒子」と命名された。
テレスコープアレイ実験では現在、検出可能範囲を4倍に増やすための拡張実験「TA×4実験」が進行中で、従来の4倍の感度で100EeV以上の宇宙線を検出することで、極高エネルギー宇宙線の発生源の究明を目標としている。またこの感度であれば、極高エネルギー宇宙線が陽子かそれより重い原子核であるかどうかの粒子種解析を高精度で進めることも可能になるとのこと。粒子種についての情報が得られれば、ほかの観測結果と組み合わせることで、宇宙に存在する磁場の大きさ・構造という宇宙環境についての新たな知見が得られるとする。さらに研究チームは、マルチメッセンジャー天文学によって、宇宙線の発生源・加速機構の理解について大きな変革・転換、そして最高エネルギー宇宙線による次世代天文学の共創を目指すとしている。