【AIで顧客満足度は上がるのか?】顧客対応をリードするインゲージ和田CEOに聞く

「ChatGPT」など生成AIの登場で、AI技術はグッと身近なものとなった。EC業界においても顧客対応領域でのAI活用が進むとみられているものの、まだチラホラ見かける程度だ。今後、AIが顧客対応領域に浸透していくことで、ユーザーの満足度は上がるのだろうか?5000社以上が導入する顧客対応クラウド「Re:lation(リレーション)」を提供し、顧客対応のDXをリードするインゲージの和田哲也CEOに顧客対応におけるAI活用の現状や進化の展望について聞いた。

――国内における顧客対応のAI活用は進んでいる?

顧客対応のAI活用は米国に比べると3~5年遅れていると思います。AIを採用した顧客対応ツールは増えていますが、AIと言いながらもキーワードに合わせて用意した回答を提示するようなツールがまだまだ多いです。

例えばAIを採用しているという問い合わせ対応のチャットであっても、「返品」と入力すると単に「返品」と言う言葉を含む回答がずらずらと出るだけだったりします。質問を理解して適切な回答を出すのではなく、単にその言葉を含む一覧を表示するに過ぎないわけです。そのため一方で、「返したい」と書くと「返品」に関する情報が出てこなかったりします。

AIを活用しているから便利だと思って利用してみても、逆にストレスがたまることの方が多いというのが現状かもしれません。

――米国ではどこまで顧客対応のAI活用が進んでいる?

返品について自然文で質問するだけで、過去の購買情報を確認し、「先日、お買い上げのこちらの返品ですか?」と尋ねてくるようなシステムが出てきています。

普通に会話しているように回答してきますし、自分たちで調べることのできる情報は調べて話を進めてくれます。人と話しているような感覚で対応し、瞬時に情報を確認してフィードバックしてくれるので、場合によっては人以上の顧客対応を実現しています。

ウェブサイトの問い合わせフォームだけでなく、チャットでも、メッセンジャーでも電話でも対応してくれる点にも差があります。電話の場合は音声で自然な会話のような形で返答してくれたりします。

▲米国では生成AIの登場で顧客対応のAI活用が急速に進んでいる

<リリース当初からAIエンジン開発に着手>

――貴社が提供する顧客対応クラウド「Re:lation」でもAIを活用していますか?

「Re:lation」は2014年にリリースしたサービスですが、その頃からAIエンジンの開発に取り組んでいました。

2018年には、AIが問い合わせの回答内容をお薦めする「AIレコメンド機能」の提供を開始しました。AIが過去に来た問い合わせとその回答のデータを学習し、新たに来た質問について、過去の知見を基にお薦めの回答を1位から5位まで順位を付けて提示します。

お客さまからの問い合わせのキーワードを拾うのではなく、自然言語処理(NLP)を活用した意味解析を行い、お客さまのニュアンスを把握して、お薦めの回答を抽出しています。

日本語はいろんな言い回しがあります。「壊れた」と「動かない」は同じ意味になるので、そこを理解できるようにAIを開発しています。

お客さまの中には、この「AIレコメンド機能」を活用して年間4000時間を削減できたという企業もあります。

当社の試算でも10人で「Re:lation」をご利用いただいている場合、「AIレコメンド」を活用することで、年間約84万円のコスト削減効果があります。

当社の調査によると、問い合わせの6〜7割は、同じような質問が占めています。ウェブサイトで説明していても、問い合わせはなかなか減りません。

このような「よくある問い合わせ」には、「AIレコメンド機能」で効率よく対応できるようにし、人には人にしかできないことに注力してもらいたいと考えています。

――今年3月に生成AIと連携した機能もリリースしていますね。

今年に入り生成AIが世の中を変える動きとして出てきたことを受け、生成AIエンジンと連携した「要約機能」を今年3月にリリースしています。

「要約機能」では過去のお客さまとのやり取りをボタン1つで要約することができます。

▲「要約機能」では過去のやり取りをボタン1つで要約できる

購入までお客さまと30回以上やり取りする企業もあります。

それだけ回数が多いと、同じ担当者が対応していても過去のやり取りが分からなくなることがあります。担当者が変わる場合は、なおさら過去のやり取りを把握するのは大変です。

問い合わせ対応は「向き合うこと」だと思っています。お客さまが増えれば増えるほど向き合うことが難しくなるのは必然です。

問い合わせ対応はネット時代の接客であり、接客を軽んじてビジネスがうまくいくことはないと考えています。

この難しさを解決するために、AIを活用しています。

<企業が負担やリスクなくAI活用できるのが理想>

――企業のAI導入を妨げているものは?

大企業は新しいソリューションを使うことに躊躇してしまうことがあると思います。新しいものは未知のものですので、お客さまにプラスの価値を提供できればいいですが、不慣れなためにお客さまに不利益を生じさせてしまうようなことがあるといけないという考えがあります。大きな企業になればなるほど慎重になるのは仕方ないのないことだと思います。

中小企業は新しいテクノロジーに追いついていくことが難しいケースや導入するためのコストがネックになることもあります。

当社はこうした企業の心理を理解し、AIなど新しい技術を「ノーハッスル(無理なく)」で利用できることが重要だと考えています。

例えば「AIレコメンド機能」を使うときに特別な操作は要りません。日々の問い合わせ対応業務をしていただくだけで、AIエンジンが問い合わせ対応業務を勝手に学習していきます。早ければ2〜3時間で学習の第1弾は終わります。

利用企業様がAIについて学ぶ必要はありません。裏側でAIが動いていて、使いたければ使うことができるようにしています。

AIは「有能な相棒」だと思います。有能な相棒であるAIの領域を広げることで利用企業さまの業務に貢献したいと当社は考えています。

――AI導入のリスクは?

例えば、AIは間違ったことでも言い切ってしまいます。文章生成AIを利用してみて、そのことを感じた方も多かったかもしれません。

そのため、AIが人のフィルターなしに、直接顧客対応すると大きな行き違いが発生する可能性があります。1つのミスが大きな問題を起こすこともあり得ます。AIは有能ではあってもあくまでも相棒でしかありません。相棒のアシストを得て最終どうするのかを決めるのが人の大切な仕事になります。

▲AI活用のリスクも押さえておく必要がある

ほかのリスクとしては外部のAIエンジンを活用する際に、自社の情報や顧客情報がそのAIの学習データに使われてしまうかもしれないという危険性もあります。これはある意味、お客様のデータがAIに漏れてしまうことになります。

当社は「要約機能」で生成AIエンジンと連携していますが、お客さまの情報が漏れないようにカバーすべきところはカバーしています。そのためお客様の情報が外部AIエンジンの学習に使われることはありません。

AIを自分で使いこなせる人はどんどん活用していけばいいと思いますが、そうではない大半の企業は、AIを安全かつ効果的に活用できるサービスを選ぶことが得策だと考えます。

――AIで効率化して空いた時間を生かし、人が顧客対応で取り組むべきことは?

やはりデリケートな部分は人がやるべきだと思います。高額な商品や、人体や健康に影響が出るような商品、慎重になるべき問い合わせなどは、人が対応した方がお客さまの納得感も高まるでしょうし、信頼関係を築きやすいと思います。

▲人が対応することで信頼関係を築くことができる

AIだと答えをすぐ出そうとしてしまいますが、人であれば相手の感情をくみ取り、もう少し詳しく聞いてから回答しようと判断することもできます。

対話を深め、きめ細かいデリケートな対応ができるのが、人の強みだと思います。

<AI顧客対応はシームレスに進化する>

――顧客対応のAIは今後、どう進化すると思いますか?

AIが介在しているということを、お客さまが意識しなくなっていくと思います。

例えば、お客さまが問い合わせをして、最初に対応したAIから、途中で人に対応者が変わっても、切り替わったことに気付かない、もしくは意識をせずに利用できる世界が来ると思います。

問い合わせが電話であっても、AIは今や人のように流暢に話ができますから、普通にオペレーターと話している感覚で問い合わせに対応し、別のオペレーターにつないだと思ったら、その対応は実は人がしているということもあるでしょう。

チャネルを横断しても同じAIのもとコミュニケーションが継続する世界も訪れると思います。今は電話用のAI、メール用のAI、チャット用のAI、メッセンジャー用のAIと分かれていますが、将来的には一つのAIが流入ソースが変わっても同じデータベースを基に対応できるようになると思います。

「Re:lation」はすでにマルチチャネルに対応しているので、当社がAIをより効果的に活用できるようになれば、チャネル横断型のAI活用も実現できます。

▲「Re:lation」は多様なチャネルに対応している

さらにその先にはAI同士の連携が進むと考えています。例えば弁護士だと労務相談に詳しい人、刑事相談に詳しい人、民事相談に詳しい人と分かれていますが、生成AIもどんどん増えていくと、自ずと得意分野が出てくると思います。

AI同士が連携して、得意分野のAIから情報をもらい、回答していくといった世界が現実のものになると思います。

――今後、「Re:lation」でAI活用の新たな機能を提供する予定はありますか?

10月12日に、「AIパッケージ」機能をリリースしました。

「AIパッケージ」では、対応が難しい問い合わせに対して、AIに相談し、AIが回答の下書きを作成してくれるような機能を提供しています。難しい問い合わせは、どうしても対応に時間がかかったり、ミスが生じたりしてしまうものです。現状でもそういった問い合わせに対しては、詳しい人に聞いたり、回答を依頼したりしていると思いますが、この部分をAIでカバーできるように開発しました。

今後もより使いやすくしていくため、アップデートを行っていく予定です。

※「AIレコメンド機能」「要約機能」は2023年10月12日以降、「AIパッケージオプション」としての申込が必要となる。

■「AIパッケージ」についての詳細はこちら

https://ingage.jp/relation/features/ai-package/

■「Re:lation」

https://ingage.jp

■インゲージ

https://ingage.co.jp/

■展示会のお知らせ

11/9~10 ResorTech EXPO 2023 in Okinawa

https://resortech-expo.okinawa/exhibitor/4983/