日本オラクルは10月31日、虎ノ門ヒルズフォーラムで、プライベートイベント「Oracle Technology Day/Oracle Applications Day」を開催した。

基調講演の第一部は、取締役 執行役 社長の三澤智光氏が、「クラウドテクノロジーとAIで変える日本の未来 ‐日本のためのクラウド、お客様のためのAI -」というテーマの下、講演を行った。

その際、三澤氏は重点施策として、「日本のためのクラウド提供」と「顧客のためのAI推進」を挙げていた。こうした取り組みを象徴する顧客として、第二部で、日本オラクル 専務執行役員 クラウド事業統括 竹爪慎治氏が野村総合研究所(NRI)、KDDI、NVIDIAの事例を紹介した。

  • 日本オラクル 専務執行役員 クラウド事業統括 竹爪慎治氏

「OCI Dedicated Region」 「Oracle Alloy」を導入したNRI

三澤社長がことあるごとに、ミッションクリティカルなシステムに同社のクラウドプラットフォーム「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」を導入している顧客として紹介するのがNRIだ。

NRIは2020年9月、顧客の環境でOracle Cloudのサービスを運用する「OCI Dedicated Region」を導入、2023年4月には、同サービス上に同社のリテール証券会社向けバックオフィス・システム「THE STAR」のサービス基盤を構築し、稼働開始したことを発表した。「THE STAR」は、日本の個人証券口座管理の約50%を担っているミッション・クリティカルなSaaSだという。

加えて、今年の年次イベント「Oracle CloudWorld」で、NRIは、パートナーとしてOCIを再販できるクラウドサービス「Oracle Alloy」の採用を発表した。これにより、NRIは顧客企業にOCIサービスへのアクセスを提供可能になり、同社の統制下で顧客企業のシステムのクラウド移行を支援できるようになる。

  • 野村総合研究所 常務執行役員 IT基盤サービス担当 大元成和氏

NRI 常務執行役員 IT基盤サービス担当 大元成和氏は、クラウドサービスの活用について、「クラウドサービスにはDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する経営変革のドライバーであることに加えて、主権性も求められる」と述べた。クラウドにおいては、データ、オペレーション、テクノロジーの3つに関する主権が求められ、NRIはOCIによって、これら3つの主権を得ているという。

大元氏は、OCIの活用については、次のように語った。

「当社の運用サービスにOCIを組み込んで、トータルのサービスとして利用している。サービス管理はオラクルが行っており、オラクルと一体となって運用している。OCI Dedicated Regionはパブリッククラウドと遜色ないことをお伝えしておきたい」

  • NRIにおけるOCI Dedicated Regionの利用状況

そして、顧客からDedicated Regionについて問い合わせがあったが、契約上、Dedicated RegionではNRIのシステムしか稼働できないことから、「Oracle Alloy」の採用に至ったという。「Alloyにより、ソブリンクラウドに近いものを提供していると考えている」と、大元氏は語っていた。

さらに、大元氏は、Dedicated RegionとAlloyにおいて、企業利用に適したLLMを実装した生成AI開発基盤サービスを構築するPoCを開始したことを明かした。現在は、オープンソースのLLMを活用しているが、Oracle Cohereがリリースされたら利用する予定だという。

OCIを活用してレガシーモダナイゼーションに取り組むKDDI

続いて、KDDIの事例が紹介された。同社は、au Payとau Pontaポイントプログラムのシステム基盤刷新に合わせて、DRサイトとして、OCIを導入した。

これにより、マルチクラウド化とDR対応、アプリケーションのオープン化、機能集約とAPI化を実現したという。

加えて、料金計算精算処理システムも基盤をオンプレからOCIにリフト、アプリはリホストした。その結果、「処理性能が3割アップした」と、KDDI 技術統括本部情報システム本部 本部長 増田克哉氏は語った。現在は、契約情報の統合を進めているそうだ。

  • KDDI 技術統括本部情報システム本部 本部長 増田克哉氏

そして増田氏は、同社の中期経営計画において、セキュリティと品質を基礎としたうえで、「攻め」と「守り」を実現することを掲げていると説明した。「攻め」の施策としては「開発アジリティの向上」と「手の内化と脱コストセンター」に、また、「守り」の施策としては「コストの改善」「システムの限界への対応」に取り組む。

「攻めの施策にAIとクラウドを利用することで、プロフィットセンターに変わる。一番大事なことは 開発のアジリティを担保すること。これが、事業に一番貢献できる」(増田氏)

KDDIは事業戦略の実現に向けて、レガシーシステムのモダナイゼーションに取り組んでいる。基幹システムは150ほどあるが、現行システムをどこまで残すか検討中とのことだ。増田氏は「、セキュリティや付加価値の高いテクノロジーを提供することで、オラクルには礎となってもらいたい」と語っていた。

OCIにGPUを提供し、OCIで生成AIサービスを提供するNVIDIA

最後に登壇したのは、エヌビディア(NVIDIA) エンタープライズ事業本部 事業本部長 井﨑武士氏だ。生成AIの盛り上がりと共に、GPUのニーズも増していることから、NVIDIAはAI分野でさまざまな企業と提携を進めている。オラクルもその一社だ。

  • エヌビディア エンタープライズ事業本部 事業本部長 井﨑武士氏

米Oracleと米NVIDIAは2022年10月、 企業のAI導入加速を目指して提携し、その一環として、GPUをはじめとしたNVIDIAのアクセラレーテッドコンピューティングをOCIに組み込むことが発表された。

続いて今年3月には、米NVIDIAがAIサービス「NVIDIA DGX Cloud」のインフラ基盤としてOracle Cloud Infrastructureを採用することを発表した。ジェネレーティブAI・クラウドサービスである「NVIDIA AI Foundations」のOCI上で稼働している。

井崎氏は、オラクルとの提携について、「生成AIの利用において言語モデルの学習が増える中、GPUが不足しており、OCIでGPUを提供することには大きな価値がある。オラクルのサービスはCPU、GPU、ストレージなど選択できる点で有用。AIを利用する際は、LLMやGPUに加えて通信環境も重要であり、複数のサーバにまたがったモデル分散が必要となる」と説明した。

また、井崎氏は日本企業のAI活用について、次のように語っていた。

「既存のサービスを使うだけでは済まず、データポリシーを見直す必要が出てくるかもしれない。また、日本はデータがデジタル化されていないため、データのサイロ化の問題もある。加えて、データのセキュリティが担保されていないため、全社レベルで堅牢な環境においてデータにアクセスできる仕組みが必要となる。モデルの精度を上げるために、ファインチューニングが必要になるかもしれないが、その際はROIを考える必要がある。RAGが次のステップとなるだろう」