林立する超高層ビルの中でひときわ目立つ世界で一番い高層ビル「ブルジュ・ハリファ」。その足元で、音楽とともに光り輝く世界最大の噴水「ドバイ・ファウンテン」。そして、世界中のセレブが集うヤシの木のような形をしている世界最大の人工島「パーム・ジュメイラ」。
“世界一”という称号をたくさん持つアラブ首長国連邦(UAE)を構成する人口約355万人のドバイ首長国に、“世界初”の「AI(人工知能)国務大臣」が存在することを知っているだろうか。
2017年に当時27歳だったオマル・スルタン・アルオラマ氏が就任した。現在は、AIだけでなく、デジタル経済およびリモートワークも担当している国務大臣だ。同氏は、2031年までにUAEをAIの世界的リーダーにするための戦略を発表している。
また、2020年9月には世界初となる「AI大学」を開講した。機械学習のすべてを学べるとされている「モハメドビンザイード人工知能大学」は、一切の費用を負担することなく勉学に励むことができる。学生全員に全額給付の奨学金、毎月の手当て、健康保険、住居が与えられるという。また、アルオラマ氏の話によると、政府官僚100人をオックスフォード大学に留学させてAIに関する教育を受けさせたとのこと。
2023年10月15~20日の期間、ドバイで開かれた中東・アフリカ最大のIT見本市「GITEX」の基調講演にはアルオラマ氏が登壇。昨今、世界中で注目されている生成AIの技術にも触れ、「AIを過剰に規制しない。反動的な政府の例にはなりたくない」と、積極的に同技術を活用していく方針を示した。
アルオラマ氏は16日の講演後、TECH+など各国のメディアからの合同取材に応じた。世界初のAI大臣は「AIが切り開く未来」をどのように描いているのだろうか。
具体的なタイムラインをもってAIの規制を
生成AIによる技術革新が脚光を浴びている一方で、活用を規制する動きもあります。これに対してどのように考えているのでしょうか。
アルオラマ氏:AIは単なる技術ではありません。AIを全面的に規制することは、電気を規制しようとすることと同じです。電気は約150年前から存在していますが、誰も電気を規制できたことはありません。
私たちは電気の特定の使用方法を規制してきました。電気が使用される特定のネットワークを規制してきました。その結果、ソケット、プラグ、サーキットブレーカーで商業的側面を規制できました。そうした規制をAIに関しても一つずつ行うべきです。
生成AIに関する喫緊の課題は「デマが生じやすい」ということです。デマは他の問題を浸食し、戦争を始める問題を引き起こす可能性だってあります。そのため、まずはデマに対処する必要があります、その後、次の大きな問題に移り、その次の問題に移る。このプロセスを新しい長期的で優れた問題に至るまで行います。
私が2017年に任命された後、2018年に国際連合に行った時のことです。誰もが同じ大きなガバナンスの問題について話していました。老人が引き起こす交通事故に関して、誰が責任を負うかという問題です。当日中に結論を出す必要がありましたが、私たちはこの質問の答えを出しませんでした。なぜなら、私たちがその問題に焦点を当て、ステップを計画して実行し、周りと協力しながらグローバルな対話を持つことが重要だと判断したからです。
同様な議論をAIでも行うべきです。例えば、私たちがAIを開発する立場として未来のAIガバナンスの議論に対しても同じ誤りが起こるのを防ぐためにどうするべきか、私たちはそれについてどのようなアクションを取ればいいのか。課題に対して、具体的なタイムラインを持って取り組む必要があります。
保護主義による過ちを繰り返したくない
欧州諸国などはAIの活用に保守的です。一方、インドや米国などはプライバシーやセキュリティに注意を払いながらAIの活用を促進しています。どちらの方針が最善だと考えていますか?
アルオラマ氏:地域の方針にあったAIを導入するべきです。私はUAEの人間として、欧州諸国のモデルが間違っている、またはインドや中国、米国のモデルが間違っていると断言することはできません。
正しいモデルは、まず、その国の政府と国民が合意するモデルであると考えています。したがって、ヨーロッパがそこで保護主義を望むなら、それはヨーロッパにとって正しいモデルだと思います。
しかし、UAEはAIの活用に関して保護主義的な姿勢はとりません。AIが人々の生活と生計に悪影響を及ぼさないように、十分なだけの統治を行うつもりです。特に、誤情報が広まらないようにする、ディープフェイクが蔓延しないようにする、といった分野では統制が必要です。しかし、技術全体は、拘束と制約ではなく、解き放たれるべきです。これが私の意見です。
西暦813年から1515年まで、中東は科学、技術、革新、経済を世界に輸出してきました。それは中東の黄金時代といえるでしょう。しかし、私たちはいまその黄金の時代にいません。1455年に登場したガッテンベルク印刷機が生み出したチャレンジと機会を放置してきたことが一つの要因です。
当時、中東地域はその印刷機を189年間禁止するという保護主義的な姿勢を取りました。それによって、他の地域と比べて遅れる結果となりました。私たちはその過ちを二度と繰り返したくないのです。
政府の役割は「無知をなくすこと」
日本では先進国に比べて世代AIの活用が進んでいません。例えば、ChatGPTの使用率は7%です(出典:MM総研)。新しい技術に抵抗を示す人も多い。この状況をどう思われますか?
人は理解できないものに対して最初は抵抗しようとします。これは人間の本性であり、特定の文化や民族に関するものではないと言えます。例えば、明日、エイリアンが地球に着陸すると言ったら、最初の反応は“恐れ”であるはず。何か未知のものが訪れると、私たちの前頭前野に恐れの本能が反応するからです。
政府の役割は、実際に技術革新の認識を高め、無知をなくし、人々がこれらのツールにアクセスできるようにすることです。そのツールを使うかどうかはその人の自由であり選択です。政府はAI全体を管理しようとするのをやめ、代わりにユースケースの規制に注力する必要があります。
一部の人々は「AIなどの新技術を使わない方が幸せ」と跳ね返すかもしれません。しかし、私は頻繁に日本を訪れますが、日本人は非常に適応力があり、非常に賢いと感じています。生成AIといったツールは、日本を新しい時代へと変換させ、さらなる成長をもたらせてくれるはずです。これが最初のステップだと思います。
日本がこの方針をさらに進展させると、人々はより新技術に対する認識が高まり、自分自身でどうしたいかを決めることができるようになるでしょう。