東京理科大学(理科大)は10月13日、フェニルエタンチオレート(PET)を含むPtドープAuナノクラスター「Au24Pt(PET)18(金属NC)」をグラフェン上に担持したナノシート「Au24Pt(PET)18@G(金属NS)」を作製し、セパレータや電極として「リチウム硫黄電池(Li-SB)」に組み込むことで、同電池の性能を向上させることに成功したと発表した。

同成果は、理科大 理学部 第一部応用化学科の根岸雄一教授、同・大学 研究推進機構総合研究院のSaikat Das助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、ナノ/マイクロスケールのサイエンスに関する学際的な分野を扱う学術誌「Small」に掲載された。

硫黄は理論容量が1675mAh/gと高く、それを活用したLi-SBはリチウムイオン電池の3~5倍という高い理論エネルギー密度を有するほか、軽量であったり製造時の温室効果ガス排出量削減に加え、製造費の低コスト化の可能性まで指摘されている。ただし、充放電時にリチウム(Li)と硫黄が反応して生成される「リチウムポリサルファイド(LiPS)」により電気容量が急速に低下してしまうことや、極表面におけるLiデンドライトの成長など、実用化に向けた課題が残されており、さらなる研究開発が求められていた。

一方、金属NCは、中心のPt原子とAu12正20面体コアの間の強い結合による、優れた安定性と触媒活性を特徴としているものの、その触媒作用を硫黄還元反応に適用した例はほとんどないとことから、研究チームは今回、金属NCを用いた高エネルギー密度かつ長寿命なLi-SBを開発することに挑んだとする。

具体的には、金属NCのテトラヒドロフラン溶液を乾燥したグラフェン上に滴下することで、金属NSは調製され、電子顕微鏡で平滑なこと、金属NCがグラフェン表面に均一に分散していることが観察されたほか、金属NSのBET比表面積は41.6m2/g、細孔径は1.8nmで、多数の活性サイトを有し、さらに効率的な導電性ネットワークを構築していることも示唆されたことを踏まえ、今回の研究では、同ナノシートを負極やセパレータとしてLi-SBに組み込み、その挙動を確認することにしたという。

研究ではLiPSに対する金属NCの酸化還元挙動を解明することを目的に金属NS電極セルのサイクリックボルタンメトリー(CV)を測定したところ、LiPSの酸化還元反応に対応するピークが見られたほか、正方向のスキャンでは、元素状硫黄S8からLi2S6への還元(-0.028V)と、Li2S6からLi2S2/Li2Sへの還元(-0.315V)に対応する2つのピークが、負方向では、Li2S/Li2S2からLi2S6への酸化(0.032V)、さらにS8への酸化(0.319V)に対応するピークが確認されたという。

一方で、グラフェン電極セルのCV測定では酸化還元ピークが見られず、電流値も低かったものの、金属NCをグラフェン表面に分散させると触媒活性が向上し、LiPSの酸化還元反応が顕著に現れたことが示唆されたという。

また、金属NSセパレータの性能を評価としてLi対称セルを作製。市販セパレータを金属NSで修飾したところ約10mVの安定した電位で700時間以上短絡することなく、連続使用が確認されたとする。このことについて研究チームは、金属NCの均一分散により電子が均一に伝導されるため、Liデンドライトの生成が抑制され、サイクル寿命が長くなることが考えられるとする。

さらに、Li-SBのコイン型ハーフセルを用い、金属NS/PPセパレータの電気化学特性を評価したところ、金属NSで修飾されたセパレータを用いたセルでは、他のセパレータに比べて、より顕著なピーク、より強い電流強度、より低い分極電位が観測され、酸化還元反応が促進されていることが判明。正方向のスキャンでは、S8からLi2S6への還元(2.27V)、Li2S6→Li2S4→Li2S2/Li2Sのさらなる還元(2.27V)に対応する2つの還元波が、負方向では、Li2S/Li2S2からLiPSと元素状硫黄S8への酸化(2.36V)に対応するまとまったピークが確認されたとする。

金属NS/PPセパレータを組み合わせたセルでは、0.2A/gの電流密度において、初期の比容量は1535.4mAh/g、300サイクル後は1315.8mAh/gで、85.7%という高い容量保持率が示され、この値について研究チームは、金属NS層がサイクル寿命の向上に寄与していることが示唆されたとする。

また、1A/gで500サイクル使用した後でも792.2mAh/gという高い可逆比容量が示され、1サイクルあたりの容量低下率は0.058%であったとするほか、高い電流密度である5A/gでも、1000サイクルにわたって558.5mAh/gの比容量が維持され、1サイクルあたりの容量低下率は0.041%、クーロン効率は100%に近いことも確認したとする。

さらにLEDパネルに金属NS修飾セパレータを組み込んだ2つのLi-SBを接続し、点灯持続時間を調べたところ、市販LIBの3時間に対し、今回のLi-SBでは7時間連続で点灯できることを確認したともしている。

なお、研究チームの根岸教授は今回の成果について、金属クラスターを持続可能エネルギー貯蔵システムに最適な電極触媒として応用するための重要な一歩になり得るとしている。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要。(a)Au24Pt(PET)18による触媒活性作用。(b)グラフェン上のAu24Pt(PET)18 (出所:理科大Webサイト)