慶応義塾大学(慶大)は9月27日、産学連携により開発し、2017年に導入した全身用立位・座位CT(以下「立位CT」)の臨床第1号機の有用性を検討した結果、検査ワークフローの改善をはじめとする複数の有用性が明らかになったことを発表した。
今回その有用性について発表された立位CTは、慶大 医学部 放射線科学教室の陣崎雅弘教授が率いる研究チームが、構想から基本設計、開発を主導し、2017年に慶大病院へと臨床第1号機として導入されて以来、臨床研究を行っていたものだ。
そして臨床研究の結果、寝台に臥位(仰向け)で寝て撮影を行う従来のCT検査と比べて、複数の有用性があることが判明したとのこと。それらの有用性については、38本の科学的英字論文に成果として発表してきたとする。慶大が発表した有用性は以下の通り。
検査のワークフローの改善
従来のCTでは臥位での撮影が必要だったが、立位CTの場合はX線検査のように立ったままの出入りで検査が可能であるため、検査に要する総時間の短縮につながるという。
完全非接触・遠隔化による感染リスク回避
従来のCTでは、コロナ禍のようなパンデミック下において、被検査者が寝台に寝るための介助を行った技師の感染リスクが課題となっていた。しかし立位CTでは介助が不要なため、完全非接触・遠隔操作を実現し、感染症患者の検査における医療従事者の感染リスクを低減できるとする。
立位で症状が出る患者への診断の有用性
腰痛のような立った状態で症状が出る患者の場合、立位の状態でのみ原因を特定できるケースがある。またヘルニア・臓器脱のように腹圧がかかることで明らかになる病態については、立位でのみ、もしくは立位でより明らかになるため、立位CTであれば病気の重症度をより正確に診断できるという。
運動器疾患の早期診断
日常的に荷重がかかる膝関節の異常は、立位の方が早期に異常を検出しやすいことが判明。特に変形性膝関節症については、立位と臥位での膝関節の回旋の程度が標準より大きいことが初期症状として発見できる可能性があるとのことだ。
骨盤底筋の緩みの判定
50歳以上の女性で多く見られ、尿失禁などの原因となりえる骨盤底筋の緩みは、立位で経時的に変化を追うことで経年的な緩みを判定できるという。
筋肉量の経時変化
筋肉の形状は立位と臥位で若干異なるため、近年身近な課題となっている加齢に伴ったフレイル(虚弱)を評価するためには、立位状態での筋肉をモニタリングする必要がある。研究チームは現在、躯幹(胴体部分)や臀部、大腿などの筋肉量を立位で定量化するAIを開発しており、経時的にどの筋肉が減少していくのかを明らかにすることを目指しているとした。
静脈評価
“容量血管”といわれる静脈は、体位によってサイズが変化するといい、研究チームは、躯幹部が心臓より高い位置にある場合には立位で臥位より静脈径が縮小し、心臓より下部の場合には増大し、部位によって静脈径の変化が異なることを明らかにしている。また一方で、頭蓋内の静脈径は立位でも臥位でも変化せず、恒常性が保たれていることも明らかにされた。こうした静脈の機能性についてはこれまであまり研究されておらず、さらなる研究を積み重ねていくとしている。
これらの結果から研究チームは、従来の臥位で撮影するCTががんや動脈硬化といった器質的疾患の診断に有用だったのに対し、立位CTは機能障害の診断における有用性が期待されるとする。そしてこの有用性は、超高齢社会において健康長寿が重視される中で、重要な役割を果たす可能性があるという。
また、慶大病院に導入された臨床第1号機に続き、2023年5月には藤田医科大学病院において立位CTの臨床第2号機が導入され、11月6日には麻布台ヒルズ森JPタワーに開業予定の「慶大予防医療メンバーシップ」にも導入するとのこと。靴を脱いで寝台に寝る必要があった従来のCTと異なり、健常者においてはそのステップを省略可能で、立ったまま効率よく検査できる立位CTについて、その利便性は高いうえ、加齢性変化の診断にも有用であることが考えられるとしている。