SAPジャパンは9月19日、AI分野における事業戦略「SAP Business AI」に関連して、パートナーエコシステム構築を国内で展開する旨を発表した。同日のプレスセミナーでは、独SAPがすでにパートナーシップ締結や提携を発表している、マイクロソフト、IBM、Google、DataRobotとの国内における戦略的パートナーシップの提携内容が紹介された。

マイクロソフトとは人材採用・社員学習で提携

SAP Business AIでは今後、ビジネスユーザーがより簡易にAIを利用できるようになるよう、パートナーシップを結んだ企業とともに生成AIも含めたAI機能を拡充していく計画だ。国内では、2023年中にSAPとパートナー企業が共同で提供する生成AI機能をリリースし、順次、新機能を増やしていくという。

  • SAPでは既存のAI機能に加えて、戦略パートナーシップを結んだ企業と生成AIを利用した機能を提供する

    SAPでは既存のAI機能に加えて、戦略パートナーシップを結んだ企業と生成AIを利用した機能を提供する

マイクロソフトとの提携では、SAP SuccessFactorsとMicrosoft 365 Copilot、Copilot in Viva Learning、Azure OpenAI Serviceを統合し、人事分野において生成AIを活用したソリューションを提供していく。両社は手始めに、人材採用と社員学習の領域で提携ソリューションを展開するという。

例えば、人材採用においては、Azure OpenAI ServiceとSAP SuccessFactorsが連携することで職務記述書のブラッシュアップが行える。

採用担当者が採用したい人材像や市場動向をプロンプトで質問し、得られた情報を基にWordで職務記述書を修正していく。そのうえで、トレンドに合ったスキルや資格を盛り込めるようにMicrosoft 365 Copilotに質問したり、差別的または人を傷つける表現をAIでチェックしたりすることも可能だそうだ。

また、Microsoft Teamsを利用した採用応募者とのオンライン面談では、どのような質問をしたらいいかについて、AIからTeams上でヒントを提供し、面接終了後に評価内容をSAP SuccessFactorsに連携するといった使い方を構想している。

  • マイクロソフトとのパートナーシップで提供するAI機能

    マイクロソフトとのパートナーシップで提供するAI機能

Googleとの提携では、SAP Sapphire 2023でも発表されたSAP DatasphereとGoogle Cloud BigQueryの統合が紹介された。これにより、SAPおよび非SAPシステムのデータが重複せず、リアルタイムにデータへアクセスできる。加えて、GCP(Google Cloud Platform)で提供するAIおよびML(機械学習)のサービスを利用して高度なデータ分析が行える。

例えば、SAPシステム上に存在する取引データや価格情報などと、外部から得られるプロモーション活動の分析データを組み合わせて、GCP上で販売促進の効果検証が実施できるそうだ。

また、2023年8月29日(米国時間)には、両社のパートナーシップ拡大に基づく、SAP DatasphereとGoogle Cloud Vertex AIを組み合わせた新たな業界ソリューションが発表された。まずは、欧州の自動車業界におけるデータバリューチェーン構築を進める「Catena-X」のデータセットとSAP製品のデータを組み合わせて、生成AIモデルを活用した自動車業界向けソリューションを提供する予定だ。

  • SAP DatasphereとGoogle Cloud Vertex AIを組み合わせた新たな業界ソリューション

    SAP DatasphereとGoogle Cloud Vertex AIを組み合わせた新たな業界ソリューション

DataRobotとの提携では、両者のサービスを連携することで企業におけるAIモデル作成・活用の自動化を後押しするという。

SAP DatasphereとDataRobotを接続することで、AI学習用のデータをDataRobotに直接取り込んで、データ前処理やAIモデル作成を実施。作成したAIモデルをSAP AI Core/SAP AI Launchpadでビジネスサイトのシステムに組み込むことで、AIによる高度な予測が可能となる。

例えば、生産・発注計画フローにおいて、在庫の大元である需要予測にAIを適用し、その誤差を定量的に評価することで在庫最適化に繋げるといった使い方もできるという。

  • DataRobotとSAPの提携でAIモデル作成・活用を自動化

    DataRobotとSAPの提携でAIモデル作成・活用を自動化

なお、業務プロセスでAIを利用し続けるためには、AIモデルの精度監視、業務トレンドの変化の自動検知、業務プロセスに組み込んだAIの一元管理、業務トレンドに合わせたAI の自動更新が重要になるという。

会計システム刷新などIBMの協業事例の知見も提供

IBMは、SAPのクラウドソリューションのエントリーポイントとなる「SAP Start」のチャットボットに、「watsonx Assistant」を提供している。

このほか、IBMでは自社のAIサービスを提供するだけでなく、自社のシステムモダナイズにて生成AIを活用した実証実験を行っている。SAPとのパートナーシップにおいては、そうした実証実験で得られた知見も企業に提供する方針だ。

プレスセミナーでは、SAP ERPにカスタマイズを加えたIBMのフルフィルメント・財務会計システム「iERP」のモダナイズプロジェクトが紹介された。同システムは現在も稼働中で、約3兆円のIBMグループの売上高を処理している。

モダナイズプロジェクトでは、業務刷新に生成AIを活用できないか検討している。ある実証実験では、520万のカスタムABAP(Advanced Business Application Programming)コードの内容説明と要約、ABAPからJavaへの変換とコード生成にAIを利用した。その結果、56のサンプルプログラムの中で38のコード変換に成功し、コードの65%を正常に要約するなど一定の成果を得られたという。

  • IBMのフルフィルメント・財務会計システムにおける生成AIを利用した実証実験の概要

    IBMのフルフィルメント・財務会計システムにおける生成AIを利用した実証実験の概要

同事例を紹介した日本アイ・ビー・エム CAIO(Chief AI Officer) 常務執行役員 テクノロジー事業本部長の村田将輝氏は、「実証実験ではIBMのAI基盤モデルだけでなく、他社製やオープンソースの基盤モデルも利用した。戦略パートナーシップにおいてはIBMのAI製品を組み込むだけでなく、さまざまな企業と一緒に取り組んだ事例を、日本のSAPユーザーに提供できたら幸いだ」と述べた。

  • 日本アイ・ビー・エム CAIO(Chief AI Officer) 常務執行役員 テクノロジー事業本部長 村田将輝氏

    日本アイ・ビー・エム CAIO(Chief AI Officer) 常務執行役員 テクノロジー事業本部長 村田将輝氏