コンカーは9月11日、バックオフィス部門を対象としたイベント「SAP Concur Fusion Exchange 2023 Tokyo」を開催した。同イベントは今年で10回目を迎えた。

今年のテーマは「2030年の未来を見据える-全てが『加速』する世界に備える-」。変化が加速する未来において、企業が持続的に価値を向上し、成長し続けるために必要な要素は何か、間接業務の改革が巻き起こす企業の変革について考えるセッションが繰り広げられた。

本稿では、日清食品ホールディングスの事例を紹介したセッションを取り上げる。この講演には、日清食品ホールディングス 取締役CSO 兼 常務執行役員である横山之雄氏と同社 財務経理部 課長の三浦健志氏が登壇し、同社の経営戦略として掲げているファイナンスDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みや成果を紹介した。

4つの創業者精神に基づくCSV経営

最初に登壇した横山氏は、「日清食品グループのCSV経営」について、以下のように紹介した。

「日清食品グループには、『食足世平(食が足りてこそ世の中が平和になる)』『食創為世(世の中のために食を創造する)』『美健賢食(美しく健康な身体は賢い食生活から)』『食為聖職(食の仕事は聖職である)』という4つの創業者精神が強く根付いており、この言葉を元にCSV経営を進めています」(横山氏)

  • ,日清食品のCSV経営について説明する横山氏

    日清食品のCSV経営について説明する、日清食品ホールディングス 取締役CSO 兼 常務執行役員 横山之雄氏

続いて横山氏は、「経営を取り巻くメガトレンド」として「テクノロジーの進化」「グローバル化の進展vs.ナショナリズム台頭」「社会/人口構成の変化」「経済力シフト/地政学リスク」「気候変動と資源不足リスク」という5つの潮流を説明した。

「『テクノロジーの進化』には、『DXのさらなる推進』『リモートワークの定常化によるオンライン化、デジタル化の進展』『非接触型サービスモデルの需要増加、工場の機械化のさらなる進展』が含まれています。加えて、『無人化の進展』や『サイバーリスクの増大』といった要素も加わり、経営に大きなインパクトを与えています」(横山氏)

「グローバル化の進展vs.ナショナリズム台頭」の具体例としては、レガシーグローバリズムの修正とネオグローバリズムへの移行の問題やSDGsやISD(投資家対国家間の紛争)といった世界標準の拡大が紹介された。また、「社会/人口構成の変化」については、 リモートワークの拡大と働き方やオフィスの変化およびハンコ・紙文化の消滅、マスク着用・3密の回避・消毒の実施といった感染防止策の定常化などが紹介された。

「日本の経営を取り巻く課題をプロットしてみると、さまざまな課題が山積しており、複雑に絡まり合っている様子が分かります。そして、この複雑に絡み合った課題は、企業価値認識の変化にもつながっており、シェアホルダー資本主義からステークホルダー資本主義へ変化した一端を担っています」(横山氏)

  • ,課題をプロットした様子 引用:日清食品

    日本の経営を取り巻くさまざまな課題 引用:日清食品

NISSIN Business Transformationで進めるビジネスモデルの変革

このように、さまざまな課題が複雑に絡み合う中、日清食品グループは、中長期戦略として3つの成長戦略テーマに取り組んでいる。テーマとは、「既存事業のキャッシュ創出力強化」「EARTH FOOD CHALLENGE 2030(環境問題)」「新規事業の推進」の3つだ。

「われわれは、この中長期成長戦略を支えていくのが『NBX(NISSIN Business Transformation)』だと確信しています。MBXとは、単純にビジネスをデジタル化するのではなく、AIやIoTを組み合わせて、ビジネスモデル自体を変えていくことです。そこでは、いつでも・誰でも・どこでも仕事ができる環境をどう作っていくかが大事です。加えて、効率化による労働生産性の向上に向けて、ペーパーレス、ハンコレス、およびスマートファクトリーの構築を推進していきたいと考えています」(横山氏)

そこで、経営トップから全社員に対し「デジタルを武装せよ」というスローガンが出され、社員一人ひとりが自主的に自らの業務を見直し、自らデジタルを勉強し活用していく組織文化の形成、意識改革の必要性が発信された。

このスローガンに基づき、2019年には「脱・紙文化元年」、2020年には「エブリデイテレワーク」、2023年には「ルーチンワークの50%減」、2025年には「完全無人ラインの成立」という目標を掲げ、日々の進捗を鑑みながら取り組みを行っている。

  • ,「デジタルを武装せよ」のイメージ

    「デジタルを武装せよ」のイメージ

年間30万枚の紙と7万時間超の業務工数を削減した方法

続いて登壇した日清食品ホールディングス 財務経理部 課長の三浦健志氏は、「SAP Concurの活用状況」を説明した。

「SAP Concur」は、SAPグループのコンカーが提供している、経費精算・出張管理・請求書管理ができるクラウドシステムだ。

日清食品は、財務DXによって本質的に実現したいことのゴールとして、場所・時間に捉われない働き方、ガバナンス・経営基盤強化、組織風土改革の3つを定め、SAP Concurを活用しているという。

「これまで、年間30万枚の紙と7万時間超の業務工数の下、請求書・経費精算業務を行っていました。そこで、請求書の受領から入力・承認・提出・保管までを一気通貫でペーパーレス・ハンコレス化し、データ読み取りによる半自動入力や承認フロー最適化を行うことで、作業工数の削減に成功しました」(三浦氏)

  • ,日清食品のSAP Concurの活用状況を語る三浦氏

    SAP Concurの活用状況を語る、日清食品ホールディングス 財務経理部 課長 三浦健志氏

SAP Concurを導入した後は、請求書を電子データで受領することを推奨し、およそ74%の請求書について完全ペーパーレス・ハンコレスな業務を実現した。紙で受領した場合も、スキャンしてデータ化してデジタル処理を実施しているという。これらの取り組みにより、年間9万枚の紙保管を削減できる見込みだ。また、「最新技術の活用による工数削減」も実現したという。

「AIを搭載したOCRソフトで請求書の記載情報を読み取ることで、データの入力を半自動化しました。この時の読み取り精度は、数値情報が90%以上、文字情報が70%以上となっています。また、システム内にガイダンス機能を搭載することで、マニュアルを読まなくても先に進める仕組みを構築しました」(三浦氏)

SAP Concur導入前には約2万6000時間の工数を必要とした経費精算業務だが、年間1万4000時間分の工数削減効果となる試算結果も出ているようだ。

三浦氏は、今回のイベントのテーマである「2030年の未来を見据える-全てが『加速』する世界に備える-」に対し、2030年までに、EARTH FOOD CREATOR(常に新しい食の文化を創造し続ける食文化創造集団)の実現と持続的成長に向け、3つの成長戦略テーマに取り組むことを挙げ、「既存事業のキャッシュ創出力強化」「EARTH FOOD CHALLENGE 2030(環境問題)」「新規事業の推進」の重要性を強調した。