ペガサス・テック・ベンチャーズはこのほど、スタートアップピッチコンテスト「スタートアップワールドカップ2023」の東京予選を東京都内のホテルで開催した。この大会はグローバル規模のビジネスコンテストで、約70の国と地域で予選が行われる。
各地域予選で優勝したスタートアップ企業は、12月1日にサンフランシスコで開催される世界決勝戦へと駒を進める。世界決勝戦での優勝投資賞金は100万米ドル(約1億4000万円)だ。東京予選では300を超えるスタートアップが応募したという。ファイナリストに選ばれた10社が、今回ピッチコンテストに臨んだ。
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ホリエモン流日本のビジネスの勝ち方とは? - スタートアップワールドカップ京都予選
小池都知事もエール「時代のニーズをとらえるスタートアップが東京から花開いて」
ピッチコンテストの開幕に先立ち、東京都知事の小池百合子氏が駆け付け、参加者に対し以下のようにスピーチした。
「私も少しずつ海外へ行く機会が増えています。インドのアーメダバード市で開催された、都市間での課題共有を目的とするU20(Urban20)に参加し、インドのスタートアップが活気づいているのを見てきました。また、フィンランドではスタートアップとインベスターが一緒に活動しているコワーキングスペースMaria01や、学生が始めたスタートアップイベントSLUSHなどが行われ、こちらも大変な賑わいを見せていました。」
さらに小池氏は続けて、「U20では大気汚染や洪水対策などが各国の課題として挙げられたので、これらの対応は世界的なニーズがあるはずです。東京でも『SusHi Tech Tokyo』として、スタートアップ・インベスター・アクセラレーターが一緒になって企業を育てる取り組みを開始しました。SusHiは"サステナブル"と"ハイテク"の造語です。ぜひ、スタートアップ企業には、日本の技術やノウハウを生かしてほしい。時代のニーズを機敏にとらえて、斬新な製品やサービスを次々に生み出していく日本のスタートアップが東京から花開くことを心から期待しています」と述べ、エールを送った。
世界の舞台への切符を手にするのは?入賞企業を一挙紹介
ピッチコンテストは、30秒間の企業紹介映像と3分30秒間のプレゼンテーション、1分30秒間の質疑応答によって評価される。出場者には、審査員が持つ70点に加えて、来場者や配信視聴者がX(旧 Twitter)で#(ハッシュタグ)を付けて投稿したポスト数に応じた30点が与えられ、合計100点満点となる。
女性の自立したキャリアを支援するオンラインスクール「SHElikes」
女性向けのオンラインキャリアスクール「SHElikes(シーライクス)」を運営するSHEが東京予選の第3位に入賞した。同社はサービス開始からわずか4年で年間売上22億円と、急成長中だ。
現在は働く女性の47%が出産を機に仕事を辞めてしまい、給与総額を見ると男女間で約3倍もの差が生じるなど、女性の労働については課題がある。SHEの代表取締役CEOである福田恵里氏は、「非正規雇用率が高い女性には、どこでも働けるポータブルなスキルが無かったり、自分に自信を持てない人が多かったりする」と、その要因を分析してみせた。
こうした課題の解決に向けて、SHElikesは、動画コンテンツによるスキル教育に加えて、定期的なコーチングで理想的な生き方を考える機会も提供する。WebデザインやWebマーケティングなどを中心に、オンライン上で100以上のレッスンを受講可能だ。
さらに同サービスはスキルを身に着けた女性に対して、転職や副業や起業など、多角的な選択肢でキャリアを支援する。現在までに累計会員数は7万人を超え、受講生や卒業生らのコミュニティも活発なのだという。
「私を産んで仕事を辞め、母は専業主婦になりました。『お母さんはあほやからもうええねん』と寂しそうに笑った母の顔が忘れられません。母のように自分の可能性にふたをしてうつむいている世界の女性にSHElikesを届けたいです。ジェンダーギャップ最下位の日本で女性の可能性を解放できれば、世界のジェンダーギャップも解決できるはず」と福田氏は力強く述べて、ピッチを締めくくった。
ノーコードで人事データを可視化して人材の課題を解決「パナリット」
第2位には、組織内の人事情報をノーコードで可視化する分析ツール「パナリット」を提供するパナリットが入賞した。代表取締役CEOの小川高子氏は以前Googleに勤務しており、同社であらゆる人事データを活用していた経験からパナリットを立ち上げた。
「パナリット」では既存のHRシステムやExcelファイルを利用可能で、データの診断やクレンジングにも対応する。また、セットアップまで1カ月以内で完了できる導入のしやすさも特徴なのだという。
ツールとデータ連携を完了すると、「新入社員の1年以内の離職率」や「残業時間とエンゲージメントの相関性」など、約300種以上の主要な人事領域のKPIが自動で計算されるため、すぐに課題点の議論を始められる。
展開するプランはユーザーの人数に応じて月額20万円から3種類。1社平均は年額500万円ほどとのこと。小川氏は「人事のデータ活用は国内だけでも9376億円、グローバル全体では11.7兆円の市場規模。当社は社内公用語が英語であり、7国籍の人材が集まるグローバルなチーム」と、審査員に成長性をアピールしていた。
AIで格差のない医療を実現する「アイリス」
見事に東京大会で優勝し世界への挑戦権を獲得したのは、AIを搭載した医療機器を開発するアイリスだ。同社は咽頭(のど)の画像と問診情報などをAIが解析し、インフルエンザに特徴的な所見を検出することで診断を支援する医療機器などを手掛けている。
同社は主に、採血のような検査データではなく、検温や聴診といった医師の診察データをデータベース化しているという。また、これまでに咽頭の画像データベース構築を完了したそうだ。この画像には診断結果もひも付いているため、診断結果を高精度に予測するAIが構築できる。
代表取締役社長の沖山翔氏は離島医として活躍した経験も持つ。まさに"Dr.コトー"のような経験から、医療の地域格差を切実に感じ6年前に起業したとのこと。AIを活用して格差のない医療の実現を目指す。
沖山氏は「すでに当社のAIを用いた診断は保険適用になっている。今後より多くの患者を診察してデータが蓄積されれば、AIはさらに高い精度を発揮する。インフルエンザだけでなく咽頭がんやアレルギー、感染症などに適用が広がる未来がある」と将来性を訴えていた。
また、優勝が発表されトロフィーを手渡されると「この喜びと皆様からの期待をまずは社員に伝えたい。重荷とは思わずにシリコンバレーのグローバル大会でも戦いたい」と喜びを表現した。