東京工業大学(東工大)、理化学研究所(理研)、九州大学(九大)の3者は8月31日、現在の技術で生成可能な「二重魔法数核」7種類のうちで、まだ一度も生成されていなかった酸素の中性子過剰な放射性同位体「28O」(陽子8・中性子20)を生成し、その観測に成功したことを共同で発表した。
同成果は、東工大 理学院 物理学系の近藤洋介助教、同・中村隆司教授、理研 仁科加速器科学研究センターの笹野匡紀専任研究員、同・大津秀暁チームリーダー、同・上坂友洋部長、九大大学院 理学研究院 物理学部門の緒方一介教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。
陽子や中性子の数が2、8、20、28、50、82、126個の時、それ以外の時と比べて原子核が安定な性質を示すことから、それらの数は「魔法数」と呼ばれている。中でも、陽子・中性子ともに魔法数となる二重魔法数核は、特に安定な「二重魔法性」と呼ばれる性質を示す。
陽子数・中性子数が共に魔法数に等しく、現在の技術で生成可能な二重魔法数核の候補は、10He(陽子2・中性子8)、28O(陽子8・中性子20)、48Ni(陽子28・中性子20)、56Ni(陽子28・中性子28)、78Ni(陽子28・中性子50)、100Sn(陽子50・中性子50)、132Sn(陽子50・中性子82)の7種だ。このうち、28Oを除く6種類はすでに観測済みである一方、28Oだけは実験の困難さからまだ一度も観測例が無く、最後に残された二重魔法数核の候補として、長年のあいだ原子核物理分野での最重要課題の1つとされてきたという。
28Oの観測の難しさは、原子核の安定性が急激に変化する限界線「中性子ドリップライン」を超えた先の原子核であることが大きい。どの同位体でも、このラインを超えると一気に寿命が短くなるのだ。酸素の場合、19O(中性子11)から24O(中性子16)までは比較的寿命が長いが、ラインを超えた25O(中性子17)になると、寿命が1垓分の1(10-20)秒と一気に短くなる。そのため、これまで最も中性子数の多い酸素として発見されたのは26O(中性子18)だったという。そうした中で研究チームは今回、これらの理由で生成が難しい28Oの観測に挑んだのである。
実験は理研 RIビームファクトリー(RIBF)において行われ、高強度の29F(陽子9・中性子20)の不安定核ビームを水素標的に入射させ、水素核(陽子)との反応によって29Fの陽子を1つはぎとることで28Oを生成する方法に着手。そして28Oの初観測に成功し、中性子が1つ少ない27Oも同時に初めて観測したとする。
観測の結果28Oの寿命は非常に短く、10垓分の1(10-21)秒ほどしかないことが判明。そのため、28Oはあっという間に24Oと4つの中性子に崩壊してしまうという。28Oの生成から、崩壊して24Oと4つの中性子が検出器に到達するまでの時間は1000万分の1秒にも満たないが、大型中性子検出器「NEBULA」などを備えた「SAMURAIスペクトロメーター」による分析で再構成された質量のスペクトルから28Oを同定し、質量(崩壊エネルギー)の測定を行ったとする。なお研究チームは、国内での共同研究だけでなく、フランスやドイツとの国際協力により、世界屈指の実験装置を複数集結させ理研の器機に組み合わせたことで、今回の観測が実現したとしている。
そして、今回の実験で測定された28Oの生成率を、最先端の大規模殻模型計算と原子核反応計算により分析したところ、28Oでは中性子数20の魔法性が消失していることが判明したという。
また今回観測された28Oの質量値は、早くも最先端の原子核理論計算を検証するベンチマークの役割を果たしており、多くの理論の結果を棄却することになったとする。理論計算をさらに進展させて、今回の実験結果をより深く理解することは、中性子数が陽子数の2倍を超える原子核、さらには中性子ドリップラインを越える未知なる原子核の構造を探る上で重要なステップになるといい、それに加えて今回の成果は、未知の核力成分である3中性子力の解読や、先端的原子核理論の改良に大きく貢献することも期待されるとしのことだ。
さらに実験技術という観点から見ると、今回の研究で確立された4中性子の同時検出技術は、これまで不可能だった極めて中性子過剰度の高い不安定核の研究を可能にするという。研究チームは、陽子が存在しない原子核である「中性子原子核」(4中性子原子核、6中性子原子核)などのエキゾチックな原子核の発見が進むことで、中性子数が非常に過多な極限原子核、宇宙での重元素合成の「r過程」、中性子星の解明がさらに進展することも期待されるとしている。