ChatGPTの登場により、AIの活用はグッと身近になった。その一方で、AIの利用においては、秘匿性の高い情報の漏洩、サイバー犯罪への悪用、生成された内容に虚偽が含まれている可能性などのリスクと背中合わせの状況にある。
そこで、企業ではこうしたリスクを踏まえた「責任あるAI」の原則に従うことが求められている。そして今、「責任あるマーケティング」が注目を集めている。
なぜなら、AIと同様、マーケティングもさまざまなデータを活用して、商品やサービスの販売促進を進めるからだ。例えば、企業は個人情報の収集や利用について、マーケティングプロセスに透明性と責任あるパーソナライゼーションが問われている。
今回、SAS Institute エグゼクティブ・バイスプレジデント 最高マーケティング責任者(CMO)のジェニファー・チェイス氏に、「責任あるマーケティング」について話を聞いた。
「責任あるマーケティング」とは?
「責任あるマーケティング」とは一般的に、企業がマーケティング活動を行う上で、利益を追求するだけでなく、法規制を遵守して社会へ与える影響に責任を持つとともに、ステークホルダーの利益を保護することとされている。
チェイス氏は、責任あるマーケティングについて、「われわれは何年も前から取り組んでおり、新しいものではなく、最近になってブランドとして出てきた」と語る。
では、なぜ責任あるマーケティングはここにきて、注目を集めているのか。チェイス氏は、その理由について以下のように説明した。
「コロナ禍で生活が変わるとともに、消費者の行動も変わった。その変化の中で、マーケターがデータにアクセスできるようになったが、消費者はきちんとした形でデータを使ってほしいと考えるようになった。加えて、GDPR、Cookieの規制といった法規制の影響もある。また、グローバルのイベントで語られる機会も増えている」
同社が6月に開催したイベントでも、責任あるマーケティングはテーマの一つだったとのことで、「実践される状況になってきている」とチェイス氏はいう。
生成AIとの関連性は?
そして、チェイス氏は「責任あるマーケティングは責任あるAIによってドライブされている」と語る。「『マーケターとして生成AIを使うべきかという問いに対する答えの一部を責任あるマーケティングが構成している」と同氏。
例えば、顧客とのコミュニケーションにおけるパーソナライゼーションについて、「責任ある」という概念は以前からあったという。「信頼がなければロイヤリティは生まれず、また、信頼を勝ち取るために データインサイトがなければいけない」と、チェイス氏は説明した。
SASでは、生成AIが組み込まれたマーケティングプラットフォーム「SAS Customer Intelligence 360」を活用することで、責任あるマーケティングを実践しているという。「AIを活用することで、マーケターはクリエイティビティのある仕事に専念できる」とチェイス氏。
具体的には、AIが生成したオリジナルコンテンツをもとに 新しいコンテンツを作ることで、生産性を向上している。ChatGPTでは、大規模言語モデル(LLM)がパブリックドメインのデータを活用するため、セキュリティのリスクがあると言われているが、「Customer Intelligence 360」は、承認しているルールのコンテキストの中で使っているから信頼できるという。
したがって、SASでは顧客に対し、自社のドメインの中でAIを利用することを勧めているそうだ。「企業は大量のプライベートデータを持っているので、AIを利用する際は信頼できるかどうかが重要」(チェイス氏)
「責任あるマーケティング」を実行する際のポイント
責任あるマーケティングを実践する上でのポイントを聞いたところ、チェイス氏は、重要なポイントとして以下の3点を挙げた。
- データを適切な形で使い、エンゲージメントを行う
- 責任ある形で技術を使う
- 予算・チーム・チャネルを責任ある形で使う
「責任ある形で技術を使う」ためには、マーケティングのアセットの最適化を行い、インパクトをレポートとして出すことが重要になるという。また、オムニチャネルにおいて、顧客のデータが適切に使われていることも不可欠となる。
そして、責任あるマーケティングのフレームワークを構築するにあたっては、「データをよく見ること、マーケティングの目的を理解することが重要となる」とチェイス氏は話す。
「データについては、『包括的なデータ構成になっているか』と『簡単にデータにアクセスできるか』を実現する必要がある。また、マーケティングコミュニケーションにおいては、カスタマーのニーズと企業の優先順位を連携させたうえで、自社の目的に合わせて行動様式を決めることが大切」(チェイス氏)
責任あるAIと同様、責任あるマーケティングにおいてもカギとなるのはデータであり、リスクを回避して安全性を確保することといえる。データを活用して、DX(デジタルトランスフォーメーション)を存分に進めるためにも、責任ある形で技術を使うことに徹する必要があるだろう。