核融合研究所(核融合研)は8月17日、核融合炉のマグネットに適用できる高温超伝導大電流導体の研究開発を行い、実用可能な安定で強い「STARS(スターズ)導体」を完成させたことを発表した。

同成果は、核融合研の柳長門教授、東北大学大学院 工学研究科 量子エネルギー工学専攻の伊藤悟准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Journal of Physics Conference Series」に掲載された。

磁場閉じ込め方式の核融合炉では、超伝導マグネットが作る磁場によって1億度以上の超高温プラズマを閉じ込めることで核融合反応を起こさせる。超伝導マグネットは、一般に細くて丸い「低温超伝導線材」がコイル形状に巻かれ、液体ヘリウムで冷却されて-269度の極低温に保たれている。

課題は、現在ヘリウムは供給不足が続いていることに加え、将来も安定供給が難しいと予想されている点だ。そのため、液体水素での冷却で済み、-253度付近で利用できる「高温超伝導」マグネットが期待されている。

核融合研では2005年から核融合炉の大型マグネットに適用できる高温超伝導大電流導体の開発に着手。開発当初から、日本を中心に開発された高温超伝導線材であり、幅4~12mm・厚さ0.1mmのテープ形状をした「REBCO(レブコ)」系線材が用いられてきた。核融合炉のマグネットでは、こうした線材を数十枚束ねて「導体」を構成する必要がある。

現在、高温超伝導大電流導体の開発は世界で行われているが、ほとんどの導体で線材の複雑なより合わせ方が提案されている。しかし、REBCO系線材はテープ形状であるためにより合わせるのが難しく、変形が生じたり機械的に弱い部分が生じたりする懸念があった。

それに対し、核融合研で開発が進められてきたSTARS導体ではこの鉄則を破り、逆転の発想でテープ線材を単純に積層するだけとし機械的に強い構造を実現。これは、低温超伝導導体と同様に偏流が生じ大きな電流を担った線材が臨界を超えても、過剰な電流をほかの線材に受け渡すのに余裕があり、結果として導体全体の温度を上げないよう保つことができるからだという。

実際に導体が試作され、2014年には現在でも高温超伝導導体の電流世界記録である10万アンペア(A)が達成され原理検証に成功。しかし、実用化できる本格導体として仕上げるのにさらに8年を要したとした。今回の研究では、次世代の核融合実験装置に適用できる2万A級の高温超伝導STARS導体を開発することにしたという。

STARS導体は、特に電流密度(電流値を導体の断面積で割った値)が高いことが特徴で、1平方mmあたり80Aを流すことを目標としており、同規模の低温超伝導導体に対して約2倍となるとする。電流密度を高くできると核融合炉のマグネットを細くでき、プラズマの周りを取り囲む機器の設置に余裕ができるとした。

  • 高温超伝導STARS導体の断面図(左)とモックアップ(右)

    高温超伝導STARS導体の断面図(左)とモックアップ(右)。REBCO系線材として、フジクラによって製造された「EuBCO線材」が用いられている。(出所:核融合研Webサイト)

STARS導体ではREBCO系線材を15枚積層し、安定化銅ジャケットに収め外側のステンレスジャケットで強度が確保された。全長6mの導体を構成し直径60cmで3回ほど巻いたコイル形状試験体が製作されたところ、温度-253度、磁場強度8テスラ(T)において1万8000Aの定格電流まで安定に通電できることが確認されたとした。これは、目標とした1平方mmあたり80Aの電流密度を達成したことになるという。また、電流の上げ下げで毎秒1000Aという高速通電が行われ、これを合計で200回以上繰り返しても安定に通電されていることが確認された。

  • 高温超伝導STARS導体で構成されたコイル形状試験体の構造と製作されたコイル

    高温超伝導STARS導体で構成されたコイル形状試験体の構造(左)と製作されたコイル(右)。STARS導体のコイル形状試験体は、金属技研によって製作された。NIFS大口径高磁場導体試験装置への組み込み前に研究グループメンバーと一緒に撮影されたもの。(出所:核融合研Webサイト)

一方、大型コイルを巻くためには、複数の導体(1本の長さは十~数百m)を接続することによって延ばしていく必要がある。STARS導体では、東北大の伊藤准教授らが開発してきた「機械的ラップ接合法」が採用されており、導体内部の高温超伝導テープ線材同士を低抵抗で接続することが可能だという。今回の2万A級導体の試験体でも、この接続方法を応用した電流導入部を製作したことが良好な結果を得ることに役立ったとしている。

  • 高温超伝導STARS導体に8Tの磁場をかけた状態で、電流1万8000Aまで100回の高速通電を行った時の最初と最後(各5回分)のコイル中心磁場強度と、導体に流した電流値の時間変化

    高温超伝導STARS導体に8Tの磁場をかけた状態で、電流1万8000Aまで100回の高速通電を行った時の最初と最後(各5回分)のコイル中心磁場強度と、導体に流した電流値の時間変化。強大な電磁力が繰り返し印加されても、安定に通電できることが示されている。(出所:核融合研Webサイト)

今回の導体試験結果から、2万A級高温超伝導STARS導体が次世代の核融合実験装置のマグネットに適用可能であると判断できたとする。同導体をさらに大型化し電流として4万A以上とすれば、将来の核融合炉用大型マグネットにも用いることができると判断されるという。今後、STARS導体を用いて大型のテストコイルを製作しさらなる実証を行う計画としている。