身近な食品を電池の代わりに使えるレモン電池。使う食品の種類を変えるだけで実験の幅が広がり、電池の仕組みも理解できると、小中学生の自由研究でも人気の題材だ。

ところが、電池の仕組みを詳しく習うのは中学3年生になってから。インターネットで検索しても「イオン化傾向」や「電子」など難しい言葉が並んでいて、大人でも理解するのがひと苦労だ。

この記事を最後まで読めば、学校でまだ「電池の仕組み」を習っていなくても(もちろん時間が経ちすぎて忘れていても)、レモン電池を通じて身近な電池との違いや仕組みについても理解できるはず。予習としても、科学への興味を刺激するきっかけとしても良いはずだ。

そもそも「電池」とは?

まずは、電池とは何かを振り返っておこう。電池とは、平たく言うと“電気を生み出す装置”だ。

電気の流れは「電流」である。小学校で電流はプラス極からマイナス極に向かって流れていると習うだろう。その電流の正体は、マイナスの電気をもった微小な粒(=電子)の大移動だ。その移動する電子の数が多いほど、大きな電流が流れる。

今回の題材のレモン電池キットに入っているメロディIC(電子オルゴール)の場合、生まれて運ばれる電子の数が多いほど、より大きな音が鳴る。

亜鉛板と銅板を使ったレモン電池の場合、電子が生まれるのは亜鉛板だ。そこで生まれた大量の電子は、リード線を通ってメロディIC、銅板へと流れていく。これが簡単なレモン電池の仕組みだ。

  • レモン電池のメカニズムの概要図

    レモン電池のメカニズムの概要図(作成:岸小春)

レモン電池の仕組み

ここからは「なぜ銅板でなく亜鉛板から電子が生まれるか?」「銅と亜鉛でなくても良いのか?」「レモン以外でも電気が流れるのか?」といった疑問を解説していこう。

レモン電池の化学反応

レモン電池の中で起きる変化は、大きく分けて2つ。マイナス極で亜鉛板が溶けていく変化と、プラス極付近で水素ガスが出てくる変化だ。これらの変化を、中学校で習う化学反応式を使って説明してみよう。

  • レモン電池で起こっている化学反応を表した化学反応式

    レモン電池で起こっている化学反応を表した化学反応式(作成:岸小春)

マイナス極の化学反応式では、亜鉛が溶けて亜鉛イオンと電子に分かれたことを表している。一方のプラス極の化学反応式は、水素イオンが電子を受け取って、水素ガスに変わることを意味している。

レモンの役割

レモンは、電子とイオンを運んで電気を流す役割を担っている。電気を流す液体のことを「電解液」と呼ぶ。この電解液は、液体型の電池にはなくてはならない存在だ。もし純水に亜鉛板と銅板を差し込んだとしても、それは電池にはならない。

マイナス極の化学反応式で登場する水素イオンは、レモン果汁に含まれる水素イオンだ。そしてレモン電池における電解液は、レモン果汁そのものなのだ。

金属板の役割

ここまでの内容を読んできて、マイナス極の亜鉛板に関する説明は出てきたが、プラス極の銅板はなぜ必要なのか不思議に思ったかもしれない。そんな銅板は、レモン電池のなかで表立っては活躍していないが、亜鉛板から電子を発生させるために重要な役割を果たしているのである。

もし銅板をアルミニウム板に変えたり、両方とも亜鉛板にしたりすると、レモン電池は動かなくなってしまうだろう。亜鉛とアルミニウムの組み合わせや、亜鉛同士の組み合わせでは電子が生まれないからだ。

金属は、溶けると金属イオンと電子に分かれる。高校化学で習う「金属のイオン化傾向」は、金属を溶けやすい順番に並べたもので、左にある金属ほど溶けて電子が出てきやすく、イオン化傾向が離れていればいるほど多くの電子が生まれる。

  • 金属のイオン化傾向を整理した表。レモン電池では、表で左に行くほどマイナス極になりやすい。

    金属のイオン化傾向を整理した表。レモン電池では、表で左に行くほどマイナス極になりやすい。(作成:岸小春)

例えば、亜鉛と銅は十分に離れているから、どちらかの金属が溶けて電子が生まれるだろうと予想できる。さらに亜鉛と銅を比べると、亜鉛の方が左にあるため、溶けてイオン化しやすいことが分かる。

つまり金属のイオン化傾向を知っていれば、亜鉛と銅を組み合わせた電池の場合に、亜鉛が溶けて亜鉛イオンになり電子を生み出すことが説明できることになる。

レモン電池を使った応用実験も解説

レモン電池の仕組みを実感するためには、応用実験をしてみるのが1番だ。難しい理屈は理解できなくても、自分なりの法則を発見できれば子供も楽しめる。科学の面白さを実際に味わえる実験を2つご紹介しよう。

材料の種類を変えてみる

まずは、先ほども話題にあがった金属の種類を変えてみよう。生まれる電子の量を変える実験だ。金属板の代わりに硬貨を使ってみても良いのだが、錆びているとうまくいかない可能性が高いため、なるべくピカピカの状態の硬貨を使うことをおすすめする。 そのほか、フォークやアルミホイルなど身近な金属で試してみても良いだろう。

また逆に、レモンをオレンジやリンゴ、豆腐に変えてみるのも面白い。電解液を変えることで、運ぶイオン・電子の量を変える実験だ。水分の多い食べ物の方がイオンや電子を運びやすいので、メロディICの音が大きくなるだろう。ジュースや炭酸水、醤油などで試してみても面白い。pHが小さい液体ほど、強い電池となるはずだ。ただしここで注意。実験に使った食材には金属が溶け出しているので、絶対に食べたり飲んだりしてはならない。

材料の数を変える

亜鉛板、銅板、レモンの組み合わせのままでも応用実験はできる。例えば、レモンと金属板の数を増やして直列につなぐことで、メロディICの音は大きくなる。この実験だと、直列つなぎによって電池が生み出す力が大きくなったと実感できるだろう。小学4年生で習う「電流のはたらき」の予習・復習にもぴったりだ。

さらに、金属板と果肉が触れ合う面積も電池の強さに関係している。金属板を大きくしたり、より奥に差し込んだりすると、より多くの電子が生まれる環境が出来上がり、強い電池になることが実感できるだろう。