無償公開の衛星データと無料ツールを使って大雨で浸水したエリアを調査する手法として、前回は欧州の合成開口レーダー「Sentinel-1」衛星を利用し、大雨当日(1時期)のデータからの推定の手法を紹介した。今回も、2022年8月初めに東北から北陸地方にかけて続いた大雨の際に、新潟県村上市の荒川流域を観測したデータをもとに、大雨前後の2時期のデータを使ってWebアプリで浸水域を抽出するもう1つの手順を解説する。

Google Earth Engineを使って2時期調査

今回は、国連 防災緊急対応衛星情報プラットフォームにて浸水解析の手法として公開されている、Google Earth Engine(GEE)を利用した方法だ。前回の1時期の画像では、「水面か、そうでないか」という2種類に分類するため、もとから川や池だったエリアまで含めて水域を抽出することになった。しかし今回のように2時期を比較すれば、元から川だったところではなく、大雨の影響で水が広がったエリアをデータ化できる。

GEEはWebアプリのため、ローカルのマシンパワーが要らないという点もメリットだ。さらにシェープファイルGeoJSONなどGIS向けのデータに自在に書き出せることもあり、良いことずくめのツールだ。

一方で欠点はというと、データの公開がSentinel公式よりも遅いことが挙げられる。欧州宇宙機関(ESA)のデータ配布サイト「Open Access Hub」でデータが公開されるのは、観測当日の午後1時から2時ごろ。ちなみにSentinel-1では、朝6時の観測から遅くとも8時間後には利用できるため、暗くなる前に大まかな浸水域を可視化でき、速報作りや危険な箇所の洗い出しにも活用できる。しかし、GEEにデータが渡されて解析できるのはそれより遅く、夕方近くになる。これは、欧州優先というESAのデータ配布ポリシーに理由があるようで、当面この順序は変わらないのではないかと思われる。

衛星の航行方向に注意して事前準備する

まずは第1回と同じように、Sentinel HubでSentinel-1の観測情報を確認する。Open Access Hubでメモした衛星データの観測パラメータが必要になるため、準備しておく。ここで重要なのは「ASCENDING(昇行/北行)」と「DESCENDING(降行/南行)」という項目だ。ASCENDINGは衛星が北向きに航行すること、逆にDESCENDINGは南向きに航行することで、衛星の方向が変わると電波の照射方向が変わるため、同じ場所を観測してもデータに差が生まれる。2時期の画像を比較する場合は、どちらかに揃えておかなければならないのである。

  • 「Pass direction」の項目(画像中央あたり)が、衛星の航行方向を示している。

    「Pass direction」の項目(画像中央あたり)が、衛星の航行方向を示している。

そして、浸水前の過去のデータをどこにとるのか、計画をたてておこう。基本的にはできるだけ状況が近い直前の時期(Sentinel-1の観測頻度では12日前)と比較すればよいのだが、台風シーズンや大雨が続いた場合など、12日前も川幅が広がっていて普段とは状況が異なることがある。できるだけ平時と比較することが理想のため、気象情報やニュースに注意して適切な時期を決めておくことが必要だ。