北海道大学(北大)は8月7日、水と光のみを用いた「水中結晶光合成法」手法を新たに開発し、銅と酸素の空孔を戦略的に添加ドーピングすることで、ナノ材料のタングステン酸(WO3・H2O)を用いた光学的臨界相を誘導できることを明らかにしたと発表した。
また、これらの光学的臨界相を有するナノ材料は、光波長0.8μm~2.5μmの赤外領域を含む全太陽光波長域での応答を促進するため、これまで前例のなかった優れた光熱変換特性を示し、太陽光水蒸発や光電気化学の高効率特性が現れることが明らかになったことも併せて発表された。
同成果は、北大大学院 工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センターの渡辺精一教授、同・張麗華准教授らの研究チームによるもの。詳細は、機能性材料に関する化学と物理学を扱う学際的な学術誌「Advanced Materials」に掲載された。
光応答性ナノ粒子を均一に分散させた材料は、太陽電池や光触媒などに応用されているが、従来法では紫外線と可視光までを利用するだけであったため、太陽光の約40%以上を占める赤外線は未利用であり、太陽光すべてをもれなく利用するための光電変換効率が悪いなどの制約があったという。そこで研究チームは今回、水と光を用いて作製する環境負荷の低い新たなナノ材料合成法である水中結晶光合成法を開発したとする。
そして研究チームは同手法を用いて、銅と酸素の空孔を戦略的にドーピングすることで、非化学量論的タングステン酸から光学臨界相を誘導することに成功。これにより、ナノ結晶の合成過程における欠陥の調節を行い、光波長0.8μm~2.5μmの赤外領域を含む広い範囲の太陽光スペクトルを利用できるようになったという。またこれらの光学的臨界相を有するナノ材料は、全太陽光波長域での応答を促進するため、従来にない優れた光熱変換特性を示し、太陽光水蒸発や光電気化学の高効率特性が現れることも確認されたとする。
具体的には、過酸化水素に溶かしたタングステン溶液中で銅元素の濃度を変えながらドーピングすることで、非化学量論的タングステン酸の半導体ナノ構造を作り出すことに成功したという。そして、作製された材料を用いたデバイスにより、優れた光熱変換特性、光アシスト水蒸発特性、および光電気化学特性が実証されたとしている。
次に研究チームは、透過型電子顕微鏡を用いて原子構造解析と電子線損失分光による誘電率・光吸収(係数)の評価を行い、さらに、密度汎関数理論に基づく第一原理計算と紫外線-可視光-近赤外分光分析による吸光度の実測と比較検討を実施。これにより、今回の研究でカギとなる銅添加元素と酸素空孔の欠陥形成機構が明らかになり、当該現象の光機能発現効果の解明に成功したとする。
今回作製された半導体デバイスについて、研究チームは、特に近・中赤外光域での優れた光電流や光吸収などの光特性を示すことから、今後の全太陽光利用のための光機能半導体・エネルギーデバイス材料開発として、さらにはソーラーエネルギーの持続可能な利用技術としての進展に寄与することが期待されるとしている。