国立天文台(NAOJ)は8月7日、東アジアVLBI観測網を用いて電波銀河「NGC4261」を観測した結果、同電波銀河の中心から1光年未満の範囲にメーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布することを発見し、それらの水分子が銀河中心の大質量ブラックホールへと落下している様子を捉えたことを発表した。

  • 電波銀河NGC4261の中心から1光年未満の範囲で検出された水分子ガス。

    電波銀河NGC4261の中心から1光年未満の範囲で検出された水分子ガス。(a)水分子からのメーザー放射の強度分布が、カラーで表示されたもの。(b)水分子ガスが遠ざかる運動が赤で、近づく運動が青で表されており、ガスの大部分が遠ざかっていることがわかる。(c・d)水分子ガスの分布と電波ジェット(白い等高線)の位置関係。(c)と(d)内の黄色い四角枠で囲まれた箇所を拡大したものが、それぞれ(a)と(b)。(c)2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト)

同成果は、大阪公立大学の澤田(佐藤)聡子特任研究員らの研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

銀河の中心に潜む大質量ブラックホールに大量の星間ガスが落ち込み続けると、結果として膨大なエネルギーが放出される。その大質量ブラックホールをエンジンとする銀河の1つが電波銀河で、中心から数万光年の規模で活発に噴出する明るい電波ジェットを放っており、星間ガスの持つ重力エネルギーが電波ジェットの噴出エネルギーに変換されていると考えられている。

NGC4261も明るいジェットを持つ電波銀河の1つであることから、大質量ブラックホールの存在が推測されている。それに加え、NGC4261の極めて中心の領域では、高密度のガスが円盤のように取り巻いていることがすでに知られていた。これらのガスがブラックホールに落下すれば、ジェットに噴出エネルギーを投入できる可能性があるという。しかし、本当にこれらの高密度なガスが大質量ブラックホールへ落下しているのかは不明であり、これまで数光年というブラックホール近傍からガスが落下しているという観測的証拠はなく、同銀河で中心部のガスがジェットのエネルギー源になっているかどうかは推測の域を出ていなかったとする。

そこで研究チームは今回、その謎を解き明かすため、東アジアVLBI観測網を用いて、NGC4261を観測したとのこと。なお東アジアVLBI観測網とは、NAOJ、韓国天文研究院、中国科学院上海天文台・中国科学院新疆天文台が連係して、各国の電波望遠鏡群をネットワークさせたVLBI観測網のことである。今回は東アジアVLBI観測網のうち、NAOJのVERAネットワークの4局(水沢・入来・小笠原・石垣島)、茨城の高萩32m望遠鏡、韓国のVLBIネットワークKVNの3局が用いられた。

そして観測の結果、NGC4261の中心から1光年未満の範囲にメーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布することが判明したとする。水分子ガスの分布は、NGC4261の高密度な電離ガス円盤の分布と空間的に一致しており、水分子ガスもNGC4261の中心を取り巻く円盤の一部を構成していることが考えられるとする。なおメーザーとは、光のレーザーと同じ原理によってマイクロ波で発生する物理現象のことをいう。

さらに、水分子からのメーザー輝線のドップラー効果から、円盤内の水分子ガスが中心に向かって運動している瞬間を捉えたとのこと。つまり、ブラックホールを取り巻くガス円盤は中心のブラックホールへと落下しジェット噴出のエネルギー源となる、というシナリオが、同銀河で観測的に示されたということになる。