そして、同プラットフォームを用いて作製・評価したPt-HEA(Cr-Mn-Fe-Co-Ni)/Pt(hkl)(hkl=111, 110, 100; 表面原子配列の規則性)単結晶表面の表面ミクロ構造とORR特性との関係性を検討し、Pt-HEA合金が従来のPt-Co合金を凌駕するORR特性を示すことを実験的に解明したとする。
またPt(111)単結晶基板に10原子層厚相当のHEA、4原子層厚相当のPtの順で堆積させたPt-HEA/Pt(111)試料の断面電子顕微鏡像と、各構成元素の分布から、表面Pt層下にHEA構成元素が概ね均一に分布した積層構造が得られたことが確認された。このことから、研究を進めるための前提となる実験研究プラットフォームを構築することに成功したとしている。
さらに、Pt-HEA/Pt(111)の初期活性はPt-Co/Pt(111)と同等であるのに対して、加速劣化試験後は30%以上高い活性を維持していることが判明。加えてPt-HEA/Pt(110)、(100)では、初期ORR活性が対Pt-Co/Pt(110)および(100)と比べて大幅に高く、劣化後でも2~3倍高い活性を維持していることも明らかにされた。劣化試験前後の断面電子顕微鏡像と深さ方向のPtの元素分布から、Pt-HEA/Pt(hkl)試料では疑似的なコアシェル構造の形成が確認でき、これはPt-Co(hkl)には見られないPt-HEA固有の現象で、耐久性が向上する直接の原因であることが考えられるとする。
これらの結果から、Pt合金触媒の高活性・高耐久化手法として、合金化元素数を増加して高エントロピー化することが、有効な手法であることが確かめられたのである。
研究チームによると今回の研究は、燃料電池コアシェル触媒材料としてPtとHEAとを組み合わせて、その特性がPt-Co合金に比較して大幅に向上すること、さらにその触媒特性向上メカニズムを原子レベルで議論・解明した初めての成果となるという。そして今後、今回の研究成果を活かし、さらに触媒の原子・ナノ構造を精緻に制御することにより、高性能のFCV用燃料電池触媒の開発が加速されることが期待されるとしている。