理化学研究所(理研)、東芝ナノアナリシス、高輝度光科学研究センター(JASRI)の3者は7月27日、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」を用いた新しい非線形分光法を考案し、これまで1次元的にしか測定できなかった蛍光X線スペクトルを2次元に拡張することに成功したと共同で発表した。
同成果は、理研 放射光科学研究センター 理論支援チームの玉作賢治チームリーダー、東芝ナノアナリシス 物理解析技術センター 表面・材料分析技術ラボの田口宗孝参事、JASRI XFEL利用研究推進室 実験技術開発チームの犬伏雄一主幹研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
X線などによって励起された原子は、元素ごとに決まった光子エネルギーを持つ蛍光X線を放出する。この性質を利用した非破壊元素分析法として「蛍光X線分光」がある。近年、蛍光X線スペクトルの形状が原子の電子状態に敏感なことも明らかにされ、現在では蛍光X線分光は電子状態の研究にも利用されている。
しかし原子を励起すると、多数のさまざまな電子状態が出現して、それぞれが強度や位置(光子エネルギー)の異なる蛍光X線を放出し、それらのスペクトル成分が重なって観測されてしまう。そのため、蛍光X線のスペクトル形状を高精度に測定できるようになった現在でも、そこから電子状態を正確に読み取ることは困難だった。そこで研究チームは今回、1次元の蛍光X線スペクトルを2次元に拡張できれば、重なっていた成分を新しい軸方向に分散させられると考察したとのこと。そして2次元化するため、蛍光X線放出の逆過程の利用を検討したという。
蛍光X線は、原子の最も内側の1s軌道の電子を励起すると放出され、大きく分けてKα線とKβ線がある。前者は、1s軌道のすぐ外の2p電子が励起された1s電子の残した空席(ホール)を埋める時に放出される(Kα発光)。一方、Kβ線は、2p電子の外の3p電子が励起された1s電子の残したホールを埋める時に放出される(Kβ発光)。
仮に、X線を照射して1s電子を3p軌道に励起できたとして、この吸収過程はKβ発光の逆過程の「Kβ吸収」であることから、Kβ発光と同等の情報が含まれているという。そこで研究チームは、次にKα発光を測定すれば、KβとKαの両方の情報を持った2次元のスペクトルが得られると考えたとする。なおKβ吸収は共鳴吸収なので、それに続くKα発光と合わせて、「共鳴非弾性X線散乱」と呼ばれる散乱過程に分類される。