東京大学(東大)、Nature Architects、エレファンテック、宮城大学、科学技術振興機構の5者は7月24日、熱収縮性のシートに折紙のパターンを印刷し、それを加熱することで与えられた多面体を自動的に折る技術を開発したと共同で発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科の鳴海紘也特任講師、同・川原圭博教授、同・大学院 総合文化研究科の舘知宏教授、同・大学院 情報理工学系研究科の五十嵐健夫教授、宮城大 事業構想学群の佐藤宏樹准教授、Nature Architectsの須藤海氏、エレファンテックの杉本雅明氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、8月6日から10日に米・ロサンゼルスで開催されるアメリカコンピュータ学会におけるコンピュータグラフィックスの国際会議・展示会「SIGGRAPH 2023」にて発表の予定。

  • お湯につけるだけで平面から立体へ自動変形した帽子

    お湯につけるだけで平面から立体へ自動変形した帽子(出所:東大Webサイト)

造形において、縦横高さに加えて形状や機能などの時間的な変化(+1D)を印刷により実現する「4Dプリント」技術や、2次元の折紙を自動で折る「自己折り」技術には、単純に3次元の形状を3Dプリントするよりも造形時間が短い場合が多い、造形時の廃材である「サポート材」が発生しない、保管や運搬に有利といった利点がある。

しかし、既存の自己折り手法による折紙は単純なものに限られており、実用的な形状を自動で折ることは困難であるなど課題もあるという。また設計面でも限界があり、既存の自己折り研究で利用される折紙パターンの多くは複雑な形状を実現できないか、変形後にテープやノリでたくさんの辺を固定する必要があったとする。さらに印刷による造形にも関わらず、印刷の利点であるフルカラーでの装飾などを同時に実現している例もなかったという。そこで研究チームは今回、工場などで使用される汎用UVプリンタに着目することにしたとする。

UVプリンタは、プリントヘッドから細かいインクの液滴を飛ばしそのインクを紫外線で硬化させることにより、さまざまな物体を装飾するために利用されている。同プリンタであれば、FDM方式の3Dプリンタなどと比べて短時間・高解像度での印刷が可能だという。

造形の手順は、まずユーザの望む3次元モデルから2次元の折紙パターンを計算するところから始まる。この時、異なる機能に対応する印刷データとして、トップコート、表面、裏面、接着用などのパターンが複数作成される。また、パターンの中には、表面か裏面のどちらかにわざと印刷を施さず、シートを露出させている場所も存在する。

  • 提案の流れ

    提案の流れ。多面体(a)を入力すると、ソフトウェアが自動的に印刷パターン(b)を生成。UVプリンタ(c)でパターンを印刷したシート(d)を、温水に浸すなど、約70℃から100℃で加熱する(e)と、入力した多面体が自動で折れる(f)。(出所:東大Webサイト)

次に、ポリオレフィンのフィルムやポリエステルの布などの熱収縮シートにパターンを印刷し、そのシートを約70℃から100℃の範囲で加熱。すると、シートが露出する部分が熱により収縮する一方、シートが露出していない部分の収縮はインク層により抑えられることになる。その結果、目標の折紙の形状が完成するのである。

なお、インクジェット印刷の精細さを活かして露出部の幅を0.1mm程度のオーダーで変化させると、それぞれの折り目の角度を0度から180度の範囲で制御できるという。また、最小で長さ3mm程度の折線パターンを折ることも可能とした。それらにより、自己折りできる折紙の解像度として既存研究の1200倍以上が達成され、数万個の面を持つ折紙を自己折りすることに成功したとする。

  • シートの模式図

    シートの模式図。トップコートとして機能するクリア、変形を制御する黒、インクとシートを接着するプライマの層が印刷された構造の断面図(a)と、その俯瞰図(b)。(出所:東大Webサイト)

  • 従来から工学で利用されてきた折紙パターンの自己折り事例

    従来から工学で利用されてきた折紙パターンの自己折り事例(出所:東大Webサイト)

また今回は、東大の舘教授らが開発した折紙設計ソフトウェア「Origamizer」や、Nature Architectsの須藤氏らが開発した折紙プロダクトの設計ソフトウェア「Crane」などを拡張して、設計ソフトウェアを実装することにしたという。それにより、ユーザが自分で設計した折紙を印刷用のパターンに変換する機能(順問題)と、ユーザが入力した多面体に折れるような印刷パターンを自動計算して出力する機能(逆問題)の両方が実現された。

この設計ソフトウェアにより、これまで工学などの分野で利用されてきた多くの折紙パターンとユーザが自由に入力した3次元形状の両方を、大きな後処理の必要なしに自動で折れることが示された。特に、ユーザが入力した任意の多面体を自己折りした成果は世界初だという。

  • ユーザが自由に入力した3次元形状の自己折り事例

    ユーザが自由に入力した3次元形状の自己折り事例(出所:東大Webサイト)

さらに、UVプリンタのフルカラー印刷機能を利用し、形状と装飾を1回の印刷で同時に実現することにも成功。これにより、プリーツのような構造と色のついたノースリーブジャケット、さまざまな色や模様を個別に印刷できる花束のギフト、お湯をかけることによって変形しメッセージが読めるようになるインタラクティブなポストカードなど複数のアプリケーション事例が示された。

  • ファッションプロダクト

    ファッションプロダクト。(a)形と色を1度に印刷したノースリーブジャケット。(b)3426個の面で構成される帽子(出所:東大Webサイト)

  • 花束のギフト

    花束のギフト。既存の手法とは異なり、さまざまな色や模様を1枚ずつ別々に印刷できる(出所:東大Webサイト)

  • インタラクティブなポストカード

    インタラクティブなポストカード。送った段階では何が書いているかわからないが、お湯をかけることでメッセージの内容がわかる(出所:東大Webサイト)

今後の展望として、手作業で折るのが難しい宇宙空間などでの変形などへの応用が期待されるという。研究チームは、今回の手法がものづくりの新技術として確立され多くの産業やデザインに活用されることを期待しているとした。