サイボウズは7月13日、オンラインメディアセミナー「地銀が変われば、地方が変わる。地方が変われば、日本が変わる。kintone×地銀×中小企業が実現する地方DX 2 ~コンサルティングができる地銀が日本のDXの立役者になる時代へ~」を開催した。
中小企業が求める伴走支援
冒頭、サイボウズ パートナー第1営業部 部長の渡邉光氏は地方における中小企業の傾向と現状について触れた。
同氏によると「地方でもDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉は認知されてきたものの、実施されているかというとDX自体は遅れている。総務省のアンケート調査では中小企業の9割がDXを実施しておらず、7割が必要性を感じていない」と指摘した。
DXの達成に向けては特定業務のデジタル化を行う「デジタイゼーション」、業務フロー・プロセスをデジタル化する「デジタライゼーション」、サービス・製品・提供などのデジタル化の「トランスフォーメーション」の3つのステップを踏む必要があるが、多くの中小企業はデジタイゼーションのフェーズにとどまっている。
一方、デジタル化を実施した中小企業では業績にプラスの影響があったとの回答が6割ほどあり、デジタル化の目的は経営課題の解決、経営目標の達成のために取り組んでいるとの調査結果もある。そのため、中小企業におけるデジタル化の支援は本業支援になりつつあるという。
しかし、渡邉氏は「デジタル化のためにはツールが必要になるものの、自社で活用することができるか否かは分からないため、本質的な課題設定と解決に導く伴走型の支援を望んでいる。つまり、モノの支援ではなく、コトの支援だ」と話す。
だが、サイボウズだけでは地元の企業を支援するのは難しいことから、地方銀行と連携したスキームを作り、デジタル化を支援している。具体的には地方銀行にICTコンサルの専門部隊を設置し、各支店の営業担当者が中小企業に提案・コンサルを行い、企業側ではICTコンサルに業務改善相談を行い、サイボウズは地域のパートナー企業をサポートしている。
渡辺氏は「経営目線・業務目線の2軸で中小企業のコンサルティングが可能になり、本業支援につながる。しかし、DXを進めるためには企業のフェーズが重要となり、デジタル化が進んでいない企業に対してスタートからハイリスクの業務ではなく、まずはローリスクの業務から取り組むことがポイントだ。そうした環境で柔軟かつ簡単に使えるものがkintoneとなる。現在、協業している銀行は20行以上となっている」と説明した。
こうした取り組みの成果により、中小企業へのコンサルティング実績件数は3年で3倍以上の498件に拡大し、金融機関内にデジタル化を支援する専門部署の設立やICT部門の成長を機に専門分野特化型の会社を設立するなどの動きも出てきている。滋賀銀行と伊予銀行(現いよぎんホールディングス)では、地方創生に資する金融間などの「特徴的な取組事例」のデジタル部門で内閣府特命担当大臣から表彰されている。今回、両行の導入事例が紹介された。
滋賀銀行の事例
まずは滋賀銀行から。滋賀県の県内総生産に占める第二次産業(製造・工業)のシェアは48.0%で全国1位、県内企業の99.8%が中小企業となっている。
滋賀銀行 営業統轄部 デジタル推進室 主任の井上里奈氏によると、中小企業はデジタルのことが分からず、システム会社側では中企業のビジネスの詳細が分からないということがあったほか、経営層は現場の課題を把握しておらず、現場も会社全体のことを理解していないといった実態があった。改善意欲はあるものの、発注企業と受注企業間、経営層と現場間において双方の理解や把握ができない状況となり、ギャップが生まれていたという。
そのような状況をふまえて、井上氏は「そこで、地方銀行こそがこうしたギャップを埋めることができる唯一の存在だと考えた。中小企業とシステム会社の間に入り、ビジネスを理解してデジタルの知識を有する銀行員が双方の交渉が円滑に進むように支援した。また、日ごろから銀行員は中小企業の経営者とはコミュニケーションができており、その気になれば現場にも深く入り込むことが可能。デジタルを活用して取引先の課題解決の支援を銀行員が行うという強みがある」と述べた。
2020年10月に本部内にデジタル推進室を設置し、デジタルツールなどを活用した取引先の業務効率化・デジタル化支援を担っている。2020年10月~2023年6月までの期間でビジネスマッチングが51件、コンサルティングが79件の計130件の支援を実施。中小企業の支援ツールとしてkintoneを軸としており、井上氏は「初期コストを大きくかけずに導入でき、現行の業務に合わせて自らシステム構築を可能としている。デジタルの一歩を踏み出すためには着手しやすいツールだ」と、そのメリットを語った。
実際に、同行が支援した建物設備保守管理を手がける山川産業では、従来は個別案件ごとの情報が各営業担当者しか分からず、経営層は現場の課題を把握できていなかったことから、経理担当者も全体を把握できていなかったため意思決定に時間を要していたという。
そこで、kintoneを導入したところ外出先での情報取得や各作業時間の短縮が可能となり、以前は1週間ほど要していた財務資料提出のスピードが向上し、意思決定にかかる時間 の短縮を実現している。
井上氏は「最初からデジタル化を希望していたわけではなかったが、企業が抱えている課題を真摯にヒアリングして提案し、支援した。あくまでデジタル化は手段に過ぎず、取引先を通じて築いた関係性をベースに取引先の付加価値向上を目指し、企業の発展に役立つことを意識している。まさに一蓮托生と言える」と効果を口にした。
同行では今後も課題を起点とした支援を継続し、デジタル化手段の幅を広げ、感動を与えられるようにしていく。
いよぎんホールディングスの事例
続いては、いよぎんホールディングス傘下のいよぎんデジタルソリューションズの事例だ。旧伊予銀行では2018年からICT支援をスタート。ITCツールの導入に課題を抱える企業に対して従来の銀行サービスにとどまらず業務効率化をサポートできる体制を目指し、業務の見える化や顧客情報管理、営業活動管理、インターネットEB/でんさい、POS連動決済端末の導入などをサポートしていた。
2022年10月に伊予銀行が持ち株会社体制に移行したことに伴い、いよぎんホールディングを設立し、地域のDXを推進するコンサルティング会社として2023年4月にいよぎんデジタルソリューションズが設立された。同社における中小企業の支援の流れとしては、課題の整理・洗い出し→改善策の提案→改善策の実行→導入サポート→運用・定着サポートとなる。
いよぎんホールディングス傘下のいよぎんデジタルソリューションズ 社長の小野和也氏は「あくまでも企業の本質的な課題を起点としており、課題の整理・洗い出しに注力し、支援している。これまでの相談件数は2013件、支援実績は218件となる」と説明した。
同ホールディングスが支援した事例として、従業員数100人超で売上高50億円の食品メーカーでは全国に営業拠点を展開しているが、課題として労働環境のデジタル化が求められていたという。そのため、まずは労働環境の基盤を整理することからスタートし、同行が伴走支援に踏み出す。
従来は紙申請が多く対応スピードと書類保管に苦戦しており、各種申請はメールやFAX、本社での押印と紙媒体による回覧のため決裁完了に平均1週間を要していたことに加え、ワークフローがすべて紙媒体のため郵送手続きなどのコストがかかり、保管場所の確保にも苦慮していたという。
当時の状況を小野氏は「可視化されていないことから、多額のコミュニケーションコストが発生していた。そこで、ペーパーレス化の相談を受けて、ICT導入と活用法を提案し、kintoneの導入を支援した」と振り返る。
kintone導入後は会社貸与のスマホやPCを利用して申請業務を電子化し、承認依頼通知がリアルタイムに上長に送信されることから即時承認が可能になり、平均で4営業日/月の削減につなげた。また、決裁と同時に申請者への通知と電子保存が完了する仕組みに変革したため、物理的な書類保管場所が不要となった。こうした効果により、1決済あたりの平均所要時間が5分の1に短縮したとともに、年間約2万枚のペーパレス化に成功したという。
小野氏は「支援期間は3年におよび、メールやWebを中心に週1の頻度で打ち合わせ、アドバイスもkintone議事録アプリに直接入力している。小さな改善を積み重ね、相談窓口は1人に集約し、効率的なコミュニケーションを行っている。また、新規に作成したアプリはモデル営業所で複数回テストし、修正を重ねて全社展開している。そして、現在は内製化に向けて若手社員5人を選出し、社内BPR(企業改革)推進担当者の育成支援を育成支援を行っている」と支援が実際に結びついている現況を説明した。
ただ、大多数の地方中小企業はDX以前にデジタル化の段階のため、紙などの老朽化した業務インフラに過度に依存し続けいている傾向があるほか、新卒採用、まとまったイニシャル投資が困難な状況となっている。
そのため、地方金融機関のグループ会社としてSaaS(Software as a Service)を活用した生産性向上と、業務改善支援に努めることで地方の持続可能性を高めるという。小野氏は「売上の軌道は道半ばのため地域に根差した視点でコンサルティングできるかが鍵となる」と述べていた。
一方、サイボウズとして渡邉氏は「地方銀行は地域課題解決のプロフェッショナルであり、豊富な経営支援ノウハウを蓄積している。そして、何よりもお客さまとの信頼関係をもっている。こうした、地方銀行の強みにサイボウズの強みを組み合わせて今後の企業支援を行いたいと考えている。当社はkintoneをはじめ、利用しやすいツールと業務改善ノウハウを有しているため、地方銀行とともに地域の中小企業を支援し、地方活性化につなげていきたい」と力を込める。
そして、同氏は「日本中に協業銀行が増え、それぞれの地域でデジタル化支援が活性化することで生産性の高い企業が増えていければと感じている。地域の企業とも連携し、地産地消のデジタル化コンサルティング基盤の構築を目指している。Bank(銀行)、Base(基盤・土台)、Business(経済活動)をもってして、BX(Bank Transformation)を実現させたいと考えている」と最後に締めくくった。