新型コロナウイルス感染症は、5月8日から感染力や重篤性などに基づく総合的な観点からみた危険性が最も低いとされる「5類感染症」へと移行した。コロナ禍が落ち着きを見せようとしている昨今、オフィスのあり方を見直そうとしている企業も少なくない。
オフィスをなくし完全リモートワークに移行する会社や、オフィス環境に投資しハイブリッドワークを実現する会社など、取り組みは十人十色だ。「出社する場所としてのオフィス」の時代は終わり、世界中の企業はオフィスに新たな付加価値を見出そうとしている。
本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介していく。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。
第11回となる今回は、ソフトウェア開発を手掛けるサイボウズの東京日本橋オフィスを紹介する。「100人100通りの働き方」を実現していることで有名な同社のオフィスは、まさに“働き方改革の最前線”だった。
ダウンタウンのような執務エリア
サイボウズは、「100人100通りの働き方があってよい」という考えのもと、社員一人ひとりが望む働き方をできるよう、さまざまな制度や環境を取り入れている。その一環として、2022年8月に東京日本橋オフィスを一部リニューアルオープンした。本稿では主にリニューアルオープンで追加されたオフィスの様子をお届けしよう。うらやましいオフィスを取材した後、自社に戻る筆者の足取りはかなり遅かった。
執務エリア「DOWNTOWN」は、“人が生活するなかで往来する場所”というイメージで設計された。各会議室や談笑スペースには、街中にあるような店や場所の名前が付けられている。
テレワークでは一人で黙々とPCに向き合うことも多い。そこでサイボウズでは、オフィスだからこそできる空間として「直接交流できる場」を設けた。業務ではなかなか接点がない社員同士の偶発的な出会いを通じて、交流やコラボレーションが生まれる。そんな交流の場が同社のオフィスにはいくつもあった。
コロナ禍で変容したオフィスのあり方
テレワークが許されていても、オフィスで集中して業務したい時はある。テレワークでは作業部屋がなく集中力の維持が難しいと感じる読者も少なくないだろう。また、コロナ禍でテレワークが浸透した結果「ほとんどの社内会議がWeb会議」という会社も多いのではないだろうか。
そこでサイボウズは、Web会議が基本となった業務スタイルに応えるため新たに16部屋の個人ブースを設置。加えて、私語厳禁のオープンエリアも設けた。「自宅とは異なるオフィスならではの広々とした開放感を味わいながらも、静かな環境で集中できるようにしています」(サイボウズ広報担当者)
また、コロナ禍以降、製品セミナーやIR説明会などをオンラインで配信する機会が増えたことを受け、新たに配信スタジオを設置。以前からあるセミナールームでのリアルセミナーの開催に加えて、配信スタジオからオンラインセミナーも開催できるようになった。
すべての人に「選択肢」を
「100人100通りの働き方」を実現する取り組みの一つに、「どのような働き方の社員でも出社できるオフィス環境作り」がある。
例えば、会議室「DIVER」は子連れ出社、礼拝、瞑想などの多様な目的に対応するために設計されている。サイボウズでは、突発的に子連れ出社をすることを許可しており、靴を脱いで過ごせるDIVERでは、子どもは家にいるような気持ちでリラックスできるだろう。大型モニターが常備されているため、社員は子どもの様子を見ながら、Web会議に参加するなど、通常業務に取り組むことができる。
オフィスの取材中、何度も「うらやましいな……」とつぶやいていた筆者。ところが、その羨望の眼差しはオフィスだけでなく「テレワークの設備」にも向いていた。
サイボウズの社員は現状、大半がテレワークを行っている。そこで同社は、自宅でも効率的に業務に取り組めるよう、社内システムやデバイスの管理を担う情報システム部門から希望者へ、在宅勤務用のモニターなどを支給している。
しかも、モニター以外のアイテムもリクエスト可能。コロナ禍以降は、PCスタンドやモニターアーム、オンライン会議が増えたことによる骨伝導のヘッドセットなどのリクエストにも対応している。基本的に上長からの承認は不要で、情報システム部から承認が下りればOKとのこと。
またサイボウズではコロナ禍以前より、各社員に在宅用とオフィス用に計2台のPCを支給している。PCは4種類(開発職は6種類)から、WindowsもMacも選べるようになっている。なんて太っ腹な会社なんだ……。
業務効率向上のために必要な環境は社員ごとに異なる。サイボウズは、働き方だけでなくツールについても「100人100通り」あってよいと考えているようだ。
今回紹介した同社のオフィスはほんの一部にしかすぎない。ひと通り見学させてもらったが、エントランスはじめ全体的にコンセプトあふれるオフィス空間となっていた。すべてを紹介しようとするとアイドル写真集くらいのボリュームになりそうなので割愛させてもらうが、気になる方には東京メトロ日本橋駅で下車してみることを強くおすすめする。