コロナ禍で大きな打撃を受けた飲食業界だが、5月に新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に移行したことを受け、ここ数カ月でコロナ禍前の活気を取り戻しつつある。

そうした状況の今、都内に4店舗を持つ「やきとり宮川」は、新規顧客の獲得とリピーター化のため、デジタルマーケティングに力を入れているという。従来は積極的な顧客獲得施策をしてこなかったという同店が、このタイミングでデジタルマーケティングにまで踏み込んだのはなぜか。そして、実際に取り組んだ施策ではどんな成果が得られているのか。

今回はやきとり宮川を運営する宮川商店 代表取締役の星浩司氏と、施策の運用を行う豊洲店 店長の彦田康平氏にお話を伺った。

  • (左から)やきとり宮川 豊洲店 店長の彦田康平氏と、宮川商店 代表取締役の星浩司氏

コロナ禍で生まれた時間を有効活用し、デジタルマーケティングの土台を準備

飲食店における顧客獲得施策としてまず思い浮かぶのは、SNSでの発信や、店舗近隣でのビラ配りだろう。宮川商店でも過去、このような施策を行ったことはあるものの、「長続きしたものはあまりなかった」と星氏は振り返る。例えば、SNSでの発信の場合、実際に店舗に足を運ぶことができない層にリーチしても、顧客獲得につながる可能性は少ない。ビラ配りの場合は近隣の人々へのアプローチにはなるが、「手応えは少なかった」(星氏)そうだ。

忙しいさなかに試したにも関わらず、大して効果が感じられないとなればモチベーションも下がる。そんな折、飲食業界をコロナ禍が襲った。やきとり宮川でも店舗の休業や営業時間の変更などの対応に追われたという。だが、休業や営業時間の短縮によって、結果的にこれまで店舗運営に注力していた時間と労力にゆとりが生まれた。そこで同店は、ホームページの作成や、検索結果表示順位の向上といったデジタルマーケティングにつながる施策の準備を進める方向に舵を切ったのである。そのサポートに入ったのが、ローカルビジネスに特化したデジタルマーケティングを軸に事業を展開するCS-Cだった。

「ディナー営業ができない期間、時間があったので、ブログの更新など外部への露出に力を入れることができました。検索結果の表示順位が向上したことでコロナ禍でもホームページの閲覧数や予約数が増え、(デジタルマーケティングへの)手応えを感じたのです。この時につくった土台があるからこそ、今があるのではないかと思っています」(彦田氏)

LINEの友だち登録が1300名以上増加

デジタルマーケティングの土台づくりが整ったやきとり宮川 豊洲店は、さらなる施策でマーケティングを進めるべく、2021年1月、CS-Cが提供する店舗特化型マーケティングツール「C-mo(シーモ)」の導入を決定した。

C-moには、店舗のあるエリア情報などの分析ができる「C-mo Dashboard」や自社・自店舗の分析機能「C-mo Analytics」、GoogleMapや各種SNS、オウンドメディアなどをまとめて最適化できる「C-mo Edit」、LINE公式アカウントと連携した紹介促進機能「C-mo Friends」などの機能があり、店舗の新規集客から固定客化までをワンストップで実現できる仕組みになっている。

豊洲店ではC-moを活用し、主にGoogle上での情報発信や、LINEを使った集客施策を実施している。彦田氏は「媒体ごとに投稿を管理するのは大きな労力がかかるが、C-moであれば、簡単に広い面に対して手を打つことができる」と、そのメリットを語る。

2022年8月から実施したLINEを使った集客施策では、既存顧客がLINEで友人・知人にお店の紹介をすることができる機能を活用。紹介を受けた人が来店時に紹介特典を利用することによって、紹介した既存顧客にも特典が届く仕組みになっている。このような施策を続けたことで、LINE公式アカウントの友だち登録者数は現在までで約1300名も増加したという。

「紹介特典を利用してくださった方は30組以上。特典内容は割引ではなく裏メニューを打ち出したので、客単価を下げることなく新規のお客さまを増やすことができました。おおよそ50万円弱の売上につながったと考えています」(星氏)

仮説・検証により、ビジネスモデル化を目指す

彦田氏は現在、定期的にCS-Cの担当者と面談を行い、前月の振り返りを行いながら、今後の戦略を策定している。「今はまだ、LINEの登録者数の母数を集めている段階」だと言うが、今後はターゲット別の施策の展開も考えているそうだ。

「LINEの施策で、我々のお店を知らなかった人に紹介してもらうことができ、顧客の母数を増やすことにつながりました。正直に言うと、インスタグラムなどで拡散されるような場合と比べ、浸透性が低いのではないかと思っていましたが、想像以上の成果だったと思います。今後は一度ご来店いただいた方にリピーターになっていただけるよう、さらなる施策を考え、仮説を立て、検証していくということを続けていきたいです」(彦田氏)

一方、星氏は経営者の視点から、今回のデジタルマーケティング施策について「どのようなITツールであれ、何を得たいのかを明確にしておくべき」だと強調する。得たいものに対し、きちんとした仮説を立て、検証をしていくことで正しい判断が可能になるのだ。また、飲食店である以上、「お客さまが得たいものをきちんと提供すること、店舗の運営やサービスがしっかりとしていることが基本」だと力を込めた。

「我々は個人商店でなく、企業として飲食事業を展開しています。今回のデジタルマーケティング施策で、次に出店する際にも活用できるような“基本パッケージ”をつくっていきたいと考えています。宮川商店としてのビジネスモデルをつくりたいのです」(星氏)

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コロナ禍で大きな変化を余儀なくされた飲食業界。少しずつ復活しつつある店舗の活気にさらなる勢いをつけるべく、やきとり宮川ではデジタルマーケティング施策を進めている。最終的に独自のビジネスモデルの確立を目指すという同店の取り組みに、今後も注目したい。