東北大学、東京学芸大学(学芸大)、筑波大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)、科学技術振興機構(JST)の5者は7月11日、非常に強力なX線の一種である「シンクロトロン放射光」を複数の異なる方向から当てるマルチビーム化というアイデアなどによって、1ミリ秒(ms)を超える0.5ms時間分解能での「4D-X線CT」の原理実証に成功したことを共同で発表した。
同成果は、東北大 国際放射光イノベーション・スマート研究センターの矢代航教授、学芸大 自然科学系基礎自然科学講座のヴォルフガング・フォグリ准教授、筑波大 システム情報系の工藤博幸教授、JASRIの梶原堅太郎主幹研究員を中心とする研究チームによるもの。詳細は、日本応用物理学会誌の姉妹紙の応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Express」に掲載された。
開発されてからおよそ半世紀が経過するX線CT技術は、物体の投影像をさまざまな方向から撮影することにより、物体内部を3次元的に可視化することが可能だ。病院にあるX線CT装置(CTスキャナ)では、撮影に数秒~数十秒程度の時間を要するが、強力なX線ビームであるシンクロトロン放射光を用いると、さらに高速なX線CTを実現できる。なおシンクロトロン放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速した上で電磁石によって進行方向を曲げた時に、本来なら電子が向かおうとしていた直進方向に発生する、指向性が高く強力な電磁波を指す。
しかしシンクロトロン放射光を用いた技術でも、課題が残されているという。それは、さまざまな方向から試料の投影像を撮影するためには、試料を高速回転させる必要があるからだ。たとえば、1msの時間分解能でX線CTを実現しようとすると、試料を1分間に3万回転というとてつもない高速度で回転させる必要がある。しかしそれでは、試料が遠心力で変形してしまったり、流動性のある試料には適用できなかったり、試料環境の制御が困難であったりと、さまざまな問題があった。そのため、これまでの4D-X線CTの時間分解能は、シンクロトロン放射光を用いた場合でも10ms前後にとどまっていたという。
そこで研究チームは今回、シンクロトロン放射光を約30ビームにマルチビーム化する独自開発の光学素子と、すべての投影像を同時に撮影するためのマルチビーム画像検出器を開発。それに加え、信号、画像などに内在する疎性(スパース性)を利用し、少ない投影数での3D可視化を可能にする圧縮センシングに基づく最先端のCT再構成アルゴリズムも同時に開発したとのこと。その結果、時間分解能1msを超える0.5ms(空間分解能:約10μm)での4D-X線CTの原理実証に成功したという。
今回の実験は、大型放射光施設「SPring-8」のシンクロトロン放射光を用いて行われた。同実験では時間分解能0.5msでタングステンワイヤを曲げている様子が4D-X線CT撮影され、その動画も公開されている。
研究チームは、今回の技術の開発により、従来の技術では捉えられなかった繰り返しが不可能な現象の4D-X線CT観察が可能になるため、材料の破壊、流体や粘弾性体などの挙動、機械加工、摩耗、溶接、燃焼など、学術研究から産業応用に至るまで、さまざまな分野への波及効果が期待されるとしている。