電通デジタルは今般、「AIに関する勉強会」と題してメディア向けの勉強会を開催した。

勉強会には電通デジタル執行役員データ&AI部門長で電通データアーティストモンゴル取締役 東京大学未来ビジョン研究センターの山本覚氏が登壇し、生成AIを中心とした「AI」について説明した。

本稿では、その一部始終を紹介する。

AIブームの変遷と世界各国の向き合い方

近年、話題になっている生成AIだが、最初の登場は2014年だった。

また生成AIだけでなく、AI全般に目を向けると1960年ごろには第1次AIブームが起こり、その後、第2次、第3次のブームを経て、現在は生成AIが台頭する第4次AIブームの真只中なのだという。

「第3次AIブームは、2019年頃に技術的に踊り場に差し掛かり、鎮静論も出ていました。しかし、新型コロナウイルスの流行や働き方改革といったさまざまな要因からDX(デジタルトランスフォーメーション)ブームが起こり、これに支えられて期待値が低減せず、現在はそのまま第4次ブームに差し掛かっているといえます」(山本氏)

  • 電通デジタル執行役員データ&AI部門長 兼 電通データアーティストモンゴル取締役 東京大学未来ビジョン研究センター 山本覚氏

第4次AIブームの特徴は、Diffusion Model(画像生成)やLLM(大規模言語モデル)といったツールが人気を博していることに加え、今までAIに触れてこなかった非エンジニアも主役になれることだという。

そんな生成AIの代表格ともいえる「ChatGPT」は2022年11月に公開されたばかりのもの。その後、より性能をアップデートしたGPT-4やNew Bingといったツールが2023年に入ってから公開されている。

ChatGPTをはじめとする生成AIが台頭してきた当初、世界各国では性能を危険視する声やサービスに対する不満も続出していたようだが、現在では多くの国が不満を言いながらも使う流れになってきているという。

そんな中、日本は、生成AIに対して好印象を抱いている国の一つとして有名だ。アメリカで「生成AIをポジティブに捉えている」と回答した人が46%と半数を切っていたのに対して、日本は75%の人が「生成AIをポジティブに捉えている」と回答したという。

また、日本では政府も業務利用に生成AIの導入を検討しているほどで、前向きな国と言える。政府だけでなく企業での活用も広まっており、電通デジタルもその内の1社だ。

「電通デジタルは、5月29日に社員全員によるオープンイノベーションを目指し、OpenAIが開発した『ChatGPT』をはじめとした、AIツールを使用できるAPIアカウントを全社員に付与したことを発表しています」(山本氏)

AIと人間の一番の違いは「楽しむ心」

このように生成AIの活用に前向きな姿勢を見せている電通デジタルだが、同社も2022年12月に、デジタル広告の運用型広告において、広告クリエイティブ制作のプロセスをAI活用によって革新するツールである「∞AI(ムゲンエーアイ)」を開発した。

  • ∞AIのイメージ

「∞AIは、デジタルクリエイティブ制作を革新する4つのAIを搭載しています。制作プロセスの4つの工程である『訴求軸発見』『クリエイティブ生成』『効果予測』『改善サジェスト』の4点です。この各AIが、一連の流れを途切れることなく支援が可能となり、広告クリエイティブ制作プロセスを変革します」(山本氏)

  • デジタルクリエイティブ制作を革新する4つのAI

上記の∞AIの話でも感じられることだが、生成AIは広告やメディアといったジャンルと相性が良いように見受けられる。

実際に、とあるキャラや人物の画像を10~20枚程度学習することで、そのキャラや人物に好きなポーズをさせて画像を生成させることができたり、ポーズ生成アプリで生成したポーズ×リアルな画像に特化した生成モデルを生み出したりすることも可能だ。

またショートムービーや音楽の生成に関する機能も拡充されつつあり、山本氏曰く「新聞の全面広告やテレビCMもAIは作れるようになる」域まで開発が日々、進んでいるようだ。

最後に山本氏は、以下のような言葉で勉強会を締めくくった。

「AIと人間の一番の違い、それは『AIはあくまで人間を観察しているだけ』ということです。感情は進化の過程で人間が得てきたもので、『楽しい』と感じる気持ちは人間特有のものです。そして、この楽しいという気持ちが、人の心を動かし、価値を創造し、世界の在り方を変える。これから多くの場面でAIを活用し、AIが入り混じった世界を生きていく上で、このことを忘れてはいけません」(山本氏)