東北大学(東北大)と名古屋大学(名大)の両者は6月28日、冬季の東京湾の高度3~4kmの上空でしばしば発生する「晴天乱気流事例」について、数値気象モデルで格子幅を35mまで狭めた超高解像シミュレーションを実施し、乱気流の様子を再現したこと、ならびに実際にその場を飛行して記録されたデータとの比較から、実際の揺れにも近い結果を得たことも併せて発表された。

同成果は、東北大 流体科学研究所/同・大学大学院 工学研究科の吉村僚一大学院生(現・名大 宇宙地球環境研究所 特任助教)、東北大 流体科学研究所の焼野藍子助教、同・大学大学院 理学研究科の伊藤純至准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球科学に関する全般を扱う学術誌「Geophysical Research Letters」に掲載された。

  • 高解像数値気象シミュレーションで再現された様子

    今回、過去に関東南部で晴天乱気流が発生した事例が、高解像数値気象シミュレーションで再現された(出所:東北大)

渦が生じて流れが乱れた状態を乱流、大気中では乱気流と呼ばれるが、これらの渦が飛行機を大きく揺らす1つの原因とされている。中でも晴天乱気流は、目視やレーダーで事前に存在を知ることが困難なため、飛行機内ではシートベルトサインが点灯する前に乱気流に遭遇してしまい、乗員・乗客が怪我をしてしまう可能性がある厄介な存在であり、機内や機体の状況に応じて目的地変更や着陸やり直しの実施につながる場合もあるため、安全かつ効率的な運航の障壁となるとされている。

その晴天乱気流が発生しやすいとされるのが、羽田や成田の離着陸便による交通量の多い東京湾上空を含む関東南部で、特に冬季において、高度2~4kmでしばしば発生することが知られており、高度変更による回避の難しい場所であるため遭遇が多くなってしまうという。

これまでの研究でも、数値シミュレーションを用いた晴天乱気流の調査が行われてきたが、多くは「乱気流の原因となった現象」の再現にとどまっており、中でも細かい渦を含む乱気流そのものの再現に取り組んだ研究、特に飛行機が飛ぶ高高度においてはほとんどなかったという。そこで研究チームは今回、スーパーコンピュータ(スパコン)「富岳」を用いた超高解像度気象シミュレーションにより、過去に東京湾上空で発生した晴天乱気流の再現を試みることにしたとする。

当時の状況をシミュレーションしたところ、乱気流への遭遇が報告された領域に重なるように、風速の乱れが予測されたという。風速の乱れは、南西で発生した流体運動の不安定の1つで、密度が異なる2つの流体の層が互いに異なる速度で運動する時に発生する「ケルビン・ヘルムホルツ不安定性」の波が北東で崩壊することで生まれていると考察された。

  • 上昇・下降に向かう風の速度と当日に乱気流の遭遇が報告された地点

    赤・青は上昇・下降に向かう風の速度。(a)当日に乱気流の遭遇が報告された地点。(b)高度3kmのシミュレーションの結果。(a)の四角Aが拡大された領域。(c)(b)のY-Y’に沿った鉛直断面。(出所:東北大)

また、これらの渦が飛行機を揺らしていたかを確かめるため、当時の飛行機が記録した揺れのデータとの比較を実行。再現した乱気流の影響を受けた飛行機の揺れをフライトシミュレータを用いて計算した結果との比較を行ったところ、格子解像度がより高い計算では実際の揺れにも近い結果となり、高解像計算で直接再現された細かい渦の影響を受けて飛行機が揺れていることが示されたとしている。

  • 最も高解像度な計算では、周波数が高く、大きな揺れが出ている

    (a)再現された乱気流中で、フライトシミュレータを用いて計算した揺れ。最も高解像度な計算では、周波数が高く、大きな揺れが出ている。(b)実際に記録された3機分の揺れ。(出所:東北大)

なお、研究チームは、今回のシミュレーション結果と、旅客機データを比較することで、高高度で発生する大気乱流のシミュレーション結果を検証することができたという点で大きな意義があるとしているほか、飛行機に危険な渦の大きさを改めて確認したことや、それらの生成過程を再現するシミュレーションとして、将来の乱気流予測のために有用な知識を与えるものとしており、今後の乱気流予測につながる成果であるとしたうえで、今後も引き続き研究を行っていきたいとしている。