アマゾン ウェブ サービス(AWS) ジャパンは6月22日、住友商事が同社のクラウドサービスを活用して、グループ企業約900社共通のクラウド利用基盤「SCデジタル基盤(SCDP)」を構築し、SAP環境の移行を開始したと発表した。
会見には、住友商事から理事 IT企画推進部長 DX・IT統括責任者補佐の塩谷渉氏が参加し、同社のクラウド移行について説明を行った。
グループ共通のデジタル基盤を構築
住友商事は10年ほど前からプライベートクラウドの構築に着手、経営体制がグループ会社経営に移行し、クラウド技術が進化する中、クラウドベースのシステムの構築が進んできたという。現在は、「安全性を確保して、パブリッククラウドへの移行を進めている」と、塩谷氏は語った。
同社のクラウド戦略は、SCデジタル基盤とAWS上にSAPのシステムを構築する「RISE With SAP」が柱となっている。SCデジタル基盤は、DX(デジタルトランスフォーメーション)による収益改善から事業創造までを支えるデジタル基盤だ。3年ほど前から提供が始まり、1年前からフルラインアップで提供が行われている。
4つのフェーズが計画されており、現在は、事業会社のDXを進めるフェーズ1に取り組んでいるという。DXによる個社の収益改善を目指している。現在は、新しいシステムをSCデジタル基盤に搭載する一方、オンプレミスで稼働していたリスク管理システム、統合ID管理システムなどの60以上の業務システムをAWS上にシフトすることにも取り組んでいる。
オンプレミスのシステムについては、「オンプレは廃止する方向にある。ただし、数が多いので、時間がかかるのは正直なところ。段階的にライフサイクルに応じてやっており、数年かけて取り組んでいく」と塩谷氏は説明した。
SCデジタル基盤は、サービスとして「AWS環境構築」「運用保守」「システム監視・分析」「システム連携(API)」「クラウド活用支援」を提供している。人的支援も行っており、同基盤上で、人をプールして、ニーズに合わせて人材を提供する仕組みをとっているそうだ。
塩谷氏は、SCデジタル基盤によって得られるメリットとして、セキュリティの強化とコスト削減を挙げた。AWS Well Architectedのフレームワークに基づき、 Amazon Guard Duty、AWS Security Hubなどのクラウドネイティブなサービスを活用して、グループ全体のセキュリティを強化できるという。加えて、これらのサービスを活用することで、セキュリティにまつわる設定検討にかかる時間が削減され、トータルコストの削減につながっているとのことだ。
また、クラウドプラットフォームとして、AWSを選択した理由について、塩谷氏は次のように語った。
「当社のシステムの運営はSCSKに委託しているが、SCSKとAWSの強固なパートナーシップが大きな理由。SCSKにはAWSの豊富な知見がある。また、AWS上には200を超えるサービスが提供されており、グループ各社にとって有用なツールが多い。これらのサービスは、AWS Well Architectedに基づき安心安全に利用できる」
Rise with SAP on AWSで基幹システムをクラウドに移行
塩谷氏は続いて、SAP製品によって構築されている「SIGMA基幹システム」の移行について説明した。同システムは、住友商事グループの営業・会計・財務・経営情報システムだ。
2001年にERPとSAP R/3を導入、2017年に「SAP HANA Enterprise Cloud」に移行し、今回、「Rise with SAP on AWS」の採用が決定した。塩谷氏は、コンポーザブルなERPを見据えて、Rise with SAP on AWSを採用したと述べた。
Rise with SAP on AWSにより、アプリ部分をECC6.0からS/4 HANAに、基盤をAWSに移行しようとしている。
同社は営業、会計、経営情報システムなどの16以上のアプリケーションを支える約60インスタンスに及ぶSAP環境を、国内拠点・グループ会社については2024年末までに、海外については2026年中旬までに移行を完了する予定。
塩谷氏は、次期基幹システムとして、AWSを採用した理由として、「東京、大阪のマルチリージョンでBCP/DR対策が可能」「SAP利用対象グループ会社の増減に応じた柔軟なコスト体系」「AWSのアナリティクスや機械学習サービスと連携によるデータドリブン経営の推進」を挙げた。
マネージドサービスですべての機能を提供しているSCSK
続いて、住友商事のクラウド移行プロジェクトを支援している、SCSK ソリューション事業グループクラウドサービス事業本部 理事副本部長 佐藤利宏氏が説明を行った。
佐藤氏は、同社のAWSビジネスの強みについて、「8000社の顧客基盤、1万5000名の社員で、クラウドリフトからクラウドリフトまでフルサポートできる。また、2000名を超えるAWSの技術者を抱えており、国内で最もAWS認定エンジニアが多い」と説明した。
最近のAWS関連のビジネスとしては、リフト案件が最も多く、リフトを行った顧客は次に内製化を希望するという。「クラウドの内製化ができると、リフトだけではクラウドの価値が出ない。ここで、シフトが出てくる」と佐藤氏は述べた。
佐藤氏は、住友商事のプロジェクトにおいて、SCSKが支援したポイントとして、以下の6点を挙げた。これら6つのポイントを取り込んだプラットフォームをマネージドサービスとして提供している。
- クラウドネイティブなアーキテクト(IaC高度化+テンプレート化)
- ビジネスにフィットしたシステム開発
- データドリブンな経営を支えるデータ基盤構築
- マルチカンパニー利用可能なセキュリティ基盤の構築
- 日々進化する最新技術情報のキャッチアップと実装
- デジタル基盤の維持保守+継続的な高度化