長引く感染症のリスク、気候変動が引き起こす自然災害、世界的な不況が予測される2023年、このような不安定な状況でも企業は成長を止めることはできません。過去の経験が通用しないこのような時代を生き抜くには、データに基づいた判断基準が必要だとほとんどの経営者が認識しています。

セールスフォース・ジャパンの調査によると、「日本のビジネスリーダーの84%が、自社の意思決定においてデータが重要であると回答」しているものの、「大多数がより良い意思決定とビジネスの成果を得るためにその力を活用できていないこと」がわかっています。

データを羅針盤とすることで、ビジネスにおける問題解決と成功の機会を生み出すことが可能です。それにもかかわらず、データから導き出されたインサイトを生かして、アクションに結びつけ、実際に成果を生み出している企業は限られています。

ビジネス課題の解決、売上拡大、新規顧客との関係構築など、さまざまな施策にデータは活用できます。本稿では、データからインサイトを引き出し、ビジネスの成果に結びつけるために鍵となる3つのポイントを、多様な業界における国内事例と共に紹介します。

(1)具体的な目標を設定

まず、データ利活用により何を達成したいのか、具体的な目標を定める必要があります。明確な目標があれば、それを達成するためのデータ分析の仕組みを整えることができます。

例えば、決済期限が3カ月を超過している発注書を確認したい場合、財務や運用情報を追跡できるようにカスタマイズしたダッシュボードを作成します。リアルタイムで更新されるデータをモニタリングして、対策を講じることができます。

あるいは、企業が成長率の高いブランドを収益や地域などの側面から判断して、最も適切なブランドをパートナーに提案し、実績に結び付けたい場合、ブランドヒートマップを構築し、そこからインサイトを得られます。

目的に応じたデータ資産を迅速に作成し、ビジネスプロセスを把握・管理することで、各ビジネスに関連する重要な課題に対応できるようになります。

富士フイルム:データの可視化・分析で顧客のダウンタイムを低減

商業印刷用の機器と関連ソリューションを取り扱っている富士フイルムにとって、取引先における印刷機器の利用状況やエラーを把握し、それらのデータを分析することは、商品開発、技術的評価、アフターサービスなどの業務を行っていくうえで必須となっています。

同社は2010年ごろから、取得している印刷機のログデータを効果的に活用し、サービス向上に役立てるための取り組みを行ってきましたが、そこには多くの課題がありました。

そこで、印刷機のインク量、印刷枚数、エラーなどの膨大なログデータの迅速な収集と分析までの作業工程の削減を目標に掲げ、業務改善に取り組みました。

Tableauを導入して、ログデータへのアクセスを容易にし、データを可視化・分析することで、分析結果をすばやく取得できるようになりました。その結果、メンテナンスの際に対策を講じることができ、顧客の機械のダウンタイムの低減を実現しました。また、アフターサービスの顧客訪問などでもデータを活用して必要な部品を確認するなど、業務の効率化が図られています。

(2)顧客中心のデータ整備

昨今、顧客接点の把握の重要性は、企業にとってますます高まっています。さらにカスタマージャーニーのあらゆる局面で価値を提供していくことが求められています。どのように顧客と関わり、どのようにすれば顧客をすべての活動の中心に据えることができるかという戦略を立案するうえでも、顧客中心のデータ整備は不可欠です。

例えば、顧客情報を一元化した統合データアーキテクチャをビジネスの目的とリンクさせ、クラウドベースのシステムを迅速に展開することで、数年ではなく数カ月でビジネスの成果を生み出すことができます。

組織の状態とその顧客を完全に把握することは、ビジネスにレジリエンスを導入して新たな収益源を創出し、今後の市場において存在感を維持するためにも不可欠となっています。

ユーザーベース:リードに関わる工程に関する情報を統合

ユーザーベースは、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」やソーシャル経済メディア「NewsPicks」などのサービスを提供しています。「顧客起点」をサービスの根幹に掲げている同社は、リード獲得からアプローチ、アポイント取得という一連の工程に関する情報を統合し、それぞれの進捗状況がシームレスに1つの画面で確認できるようにしました。

これにより、案件や担当者が課題を個別に特定して、その要因までデータから推察できるため、データに基づいて議論や対策を練ることが可能になり、課題解決に結びついています。

(3)ワークフローにセルフサービスアナリティクスを取り入れる

業務のあらゆる場面でデータが生成されている現在、社員のだれもがデータリテラシーを身につけ、データを活用することが求められています。データリテラシーとは、データを理解し、探求し、活用し、意思決定を行ったり、データを使用して会話したりするために必要なスキルを指します。

革新的な技術の進歩に伴い、分析へのハードルが下がり、データサイエンティストなどのデータの専門家でなくてもビジネスパーソンのだれもが分析できる状況が整いつつあります。

特にセルフBIツールの使い勝手は格段に上がり、さらに普及が進むと期待できます。分析を利用する場が実際のワークフローに取り入れられていたら、なおさら、業務と直結したインサイトを獲得できます。

セルフサービスアナリティクスの活用により、社員は自分自身の疑問を解決し、洞察をより早く発見するためのツールとパワーを手に入れることができます。また社員は協力して、カスタマイズされた指標とディメンションが合意されていることを確認し、チームの目標達成をサポートできます。

日立製作所:業務部門がシステムを構築してデータを活用

日立製作所は、データ利活用基盤を構築・展開して、誰もが自らデータを分析して行動につなげられる環境を整えています。これにより、業務部門が自らTableauを利用して、プロジェクト情報やその品質状況を管理・共有するシステムや、エンジニアに各種の情報・知見を提供するシステムなどを構築して、業務に役立てています。

同様に、グループ会社でも業績・プロジェクト・人財・労務等のデータを可視化・共有する基盤として、Tableau の自主的な利用が始まっています。日立製作所だけでなくグループ企業を含めたさまざまな部門の従業員が、業務の中で自由にデータを探索・分析・加工し、変革につなげる取り組みが進められています。

野村総合研究所:顧客にデータ分析サービスを提供

最後にデータを有効活用して、サービス拡充や新規ビジネスの提案につなげている野村総合研究所の事例を紹介します。

同社は顧客である企業やグループ会社から預かったデータを自社のDWH(データウェアハウス)に蓄積し、ダッシュボードの作成やデータ分析のサービスを提供しています。

顧客である地方銀行の証券子会社では、ダッシュボードを日常的に見ている営業担当者の新規資金導入額が、そうではない営業担当者に比べて2~3倍になっていることがわかりました。データ分析が売り上げに貢献していることを示しています。

同社は今後、金融業界だけではなく、他の業界にもこのサービスを拡大し、業界の枠を超えてデータ分析インフラを構築し、共創によりビジネスの幅を広げていきたいと考えています。

以上、3つのポイントに重点を置いてデータを活用し、その分析結果を、各事業/プロジェクトを実際に担当している社員が用いて、お客様との関係を強化することで、具体的なビジネスの成果の達成につながります。

的確なデータ分析を、顧客への提案や新規事業の開発につなげていくことは、今後の日本企業のビジネス成長において重要な鍵になると言えます。

著者プロフィール


森田 青志(もりた せいじ)

株式会社セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 Tableau 事業統括本部 統括本部長

2013年、株式会社セールスフォース・ジャパンに入社。 金融・公共担当 AVP、Industry VP、カスタマー・サクセス・グループ営業担当VP、チーフ・マーケティング・オフィサー、セールスエンジニアリング統括本部長を経て、2023年2月にTableau事業統括に就任、現在に至る。 セールスフォース入社以前は、日本アイ・ビー・エム株式会社にて金融機関担当SEや営業マネジメントを担当、日本ヒューレット・パッカード株式会社にてサービス営業を統括、また日本電子計算株式会社にて営業部門執行役員を務めた。