理化学研究所(理研)は6月13日、生体試料から直接ウイルスを検出できる世界最速レベルの非増幅遺伝子検査法「Direct-SATORI法」を開発し、生体試料から8種類の病害ウイルスを15分間で直接検出できる全自動遺伝子検査を実現することに成功したと発表した。
同成果は、理研 開拓研究本部 渡邉分子生理学研究室の渡邉力也主任研究員、同・篠田肇研究員、同・上田智也基礎特別研究員、同・飯田龍也テクニカルスタッフ、同・牧野麻美テクニカルスタッフ、同・吉村麻実テクニカルスタッフらの研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する分析化学に関する全般を扱う学術誌「Analytical Chemistry」に掲載された。
現在、ウイルス病の診断においては、ウイルスのタンパク質抗原を検出する「抗原検査法」と、遺伝子を増幅して検出する「PCR検査法」が主に利用されている。前者は30分程度で迅速・簡便に検出できるが、感度や特異度の低さに起因する検出エラーの多さが課題だ。一方で後者は感度に優れるが、検出の前処理に最短で1時間程度かかるため、大量の検体の迅速な診断が困難なことが課題となっている。そのため、両者の長所である「迅速・簡便さ」と「感度の高さ」を両立させた新たな検査法が求められていた。
そうした中、研究チームは2021年に、世界最速レベルの遺伝子検査法「SATORI法」を発表。翌2022年には同手法の全自動装置「opn-SATORI装置」も発表している。SATORI法は、酵素と微小試験管を集積させたマイクロチップ「CRISPR-Cas13a」を用いることで、ウイルスの遺伝子を増幅せずとも1分子レベルで識別し、わずか9分間以内の迅速さで検出できるというものだ。
なお検出限界濃度は、PCR検査法とほぼ同等となる1μLあたり1.4コピーで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の臨床検体を用いた検証実験では、陽性判定および変異株判定において98%以上の正解率を達成しているとする。
しかしSATORI法もこれまでは、生体試料から直接ウイルスを検出することができないという課題を抱えていた。そのため別の装置を用いて、ウイルスの遺伝子をあらかじめ抽出・精製する必要があったという。これにより、臨床現場で生体試料を採取してからSATORI法の全工程を完結するのに最低でも30分間以上の時間を要しており、さらなる検査工程の簡略化および検査時間の短縮が強く望まれていたとのことだ。そこで研究チームは今回、SATORI法を大幅に改善し、生体試料からウイルス遺伝子を直接検出できる「Direct-SATORI法」を開発したという。