IBMは、AIを活用し、インテリジェントな自動化を実現するコンセプト「IBM Automation」を打ち出している。AIの活用により、ビジネスとITの両面において、生産性向上や意思決定の迅速化を実現するとともに、ソフトウェアによって業務を自動化するデジタルレイバーを促進することができる。

そして、先ごろ米IBMが発表した独自の生成AI「IBM watsonx(ワトソンエックス)」により、IBM Automationは大きな進化を遂げることになりそうだ。来日した米IBM 副社長 Technology事業本部ワールドワイド・オートメーション・セールス担当のラブロス・キソーラス(Labros Kisouras)氏に、IBM Automationの現状について聞いた。

  • 米IBM 副社長 Technology事業本部ワールドワイド・オートメーション・セールス担当のラブロス・キソーラス(Labros Kisouras)氏

    米IBM 副社長 Technology事業本部ワールドワイド・オートメーション・セールス担当のラブロス・キソーラス(Labros Kisouras)氏

IBM Automationが持つ3つの要素

IBM Automationは、人の生産性を高める「デジタルレイバー」「自動化したIT運用およびオブザーバビリティ(可観測性)」「アプリケーションモダナイゼーション」の3つで構成され、いずれもAIを組み込むことで、インテリジェントな自動化を実現している。

米IBMのキソーラス副社長は、IBM Automationについて「AIの活用を前提としており、しかもフフロントに自然言語処理を使用している点が特徴となる。そのメリットは、あまり知られていなかったが、ChatGPTが登場してから多くの人が理解するようになった。インダストリーナレッジといわれる業界ごとの知識のモデル化により、特定のビジネス向けに利用できるほか、サイバーセキュリティや地政学リスクへの対応、地理空間情報などの各種データをビジネスで使用し、拡張したフレームワークのなかで運用できる点が他社とは異なる」と位置づけている。

  • 「IBM Automation」の概要

    「IBM Automation」の概要

技術的な専門性や、それをもとに提供するツールは、ITとビジネスの両方の自動化に利用できるため、その間のギャップを埋めるだけでなく、、エンドトゥエンドでの相互連携を可能としている。

また、アーキテクチャーの簡素化、コスト削減にも貢献できること、20の業界において、1億ユーザーが利用している実績をもとにした信頼性があり、ミッショクリティカルの領域にも活用できること、顧客を熟知した内部の専門家と、SIerをはじめとしたIBMのパートナーエコシステムを活用した課題解決の提案も可能になると説明した。

キソーラス氏によると、IBM Automationを構成する1つ目の「デジタルレイバー」は、AIを活用して、人の生産性を高めることに貢献するという。

同氏は「ビジネスの現場では、人材不足だけでなく、スキル不足が指摘されている。企業が生産性を高めるためには、単純労働をAIに移行し、価値を持った仕事を人が行う仕組みを作る必要がある。それを支援することができる」と語る。

IBMでは、これまでにもインテリジェントワークフローの提案を行い、ワークフローの自動化に取り組んできたが、IBM Automationで提供するデジタルレイバーはフロントエンドに自動化の要素を持ち、自然言語を用いてコードを書くことなく、データを収集し、結果を導き出すことができるとも述べている。

また、他社のRPAとも容易に連携ができ、IBM製品を使っていないユーザーでもデジタルレイバーの恩恵を受けることができるようになるという。

2つ目の「自動化したIT運用およびオブザーバビリティ」は、ITシステムの高信頼性を実現するというものだ。

キソーラス氏は「B2BおよびB2Cのいずれにおいても、デジタルチャネルを構築するためのシステムの生産性や信頼性が高く、最適化されていないと優れたユーザー体験を提供できないという事態に陥る。その結果、サービス品質が持ち、企業の評価も落ちる。そうした課題を解決すために、ITの運用を自動化するとともに、オブザーバビリティを実現しているところにIBM Automationの特徴になる」と説く。

オブザーバビリティは、ITシステム、ビジネスプロセス、ITコストの3つの観点から実施することが大切であり、どれが欠けてもいけないと指摘。それぞれが共通に利用できる環境も重要であることを強調した。

3つ目の「アプリケーションモダナイゼーション」では、ビジネス変革を加速するために、デジタル化だけでなく、AIを活用することがより重要になるとの認識を示す。

同氏は「AIを活用することで、Javaからマイクロサービスへ転換したり、Ansible Playbookを活用したりといったことができるほか、研究段階ではあるがJavaからCOBOL、COBOLからJavaへの変換にも取り組んでいる。アプリケーションのモダナイゼーションは重要なものになり、それを支えることができる」とした。

IBM Automationはベストオブブリード

IBM Automationのポートフォリオは、プロセスマイニングやRPA、ワークフローなどで構成する「IBM Business Automation」、APIマネジメントやエンドトゥエンドセキュリティ、エンタープライズメッセージングなどによる「IBM Integration」、オブザーバビリティやアプリケーションリソースマネジメント、グリーンITなどの「IBM IT Automation」、WebSphere ServerやTransformation AdvisorなどのIBM Platformで構成される。

  • 「IBM Automation」のポートフォリオ

    「IBM Automation」のポートフォリオ

こうしたポートフォリオを俯瞰して、キソーラス氏は「IBM Automationはベストオブブリードの考え方が基本姿勢であり、業界にある素晴らしい製品やツールを活用することができる。SaaS(Software as a Service)環境だけで利用したいというニーズや、ハイブリッドクラウド環境で利用したいというニーズにも応えることができる。たとえば、IBM Cloud Paksも、IBM Automationを構成するものであり、IT資産全体にわたってセキュリティを統合し、管理を可視化しながら、ハイブリッドクラウド環境での運用を自動化できる」と、メリットを述べている。

さらに、IBM Automationにおいては、2020年にIBMが買収したオブザーバビリティのInstana(インスタナ)、2021年に買収したTurbonomic(ターボノミック)が大きく貢献しているという。

Instanaにより、複雑なハイブリッドクラウド環境全体にわたるモダンアプリケーションの管理機能を向上させたほか、Turbonomicはコンテナや仮想マシン、サーバ、ストレージ、ネットワーク、データベースなどのリソースを最適化するために、AIを用いてパフォーマンスを確保し、コストを最小化するためのフルスタックのアプリケーションの可観測性および管理を企業に提供する。

同氏は「Instanaは、IBM Automationの肝に位置づけられる製品の1つであり、Turbonomicは今後拡張し、コスト削減という観点での機能も強化でき、IBM Automationのプラットフォームのなかで利用していくことになる。2023年6月には、ビジネスの運用をリアルタイムで可観測するIBM Instana Observability Business Monitoringを提供する。インフラストラクチャ、ミドルウェア、アプリケーション、ビジネスプロセスをカバーし、ITとビジネスを橋渡しする機能も持つ。それぞれの変化や問題点を即座に把握し、オブザーバビリティの新たな市場を切り開くものになる」と説明した。

IBM watsonxの実装はいかに

注目されるのが、IBM AutomationへのIBM watsonxの実装である。IBM watsonxは、2023年5月に米フロリダ州オーランドで開催した年次イベント「Think」において、米IBMのアービンド・クリシュナ会長兼CEOが、基調講演のなかで発表したものであり、「生成AIをビジネスで活用するための新たなプラットフォーム」と位置づけている。

  • 「Think」において「IBM watsonx」が発表された

    「Think」において「IBM watsonx」が発表された

IBM Automationへの実装に関してキソーラス氏は「IBM watsonxはIBMにとって重要なテクノロジーである。まだプロトタイプの段階だが、私のノートPCのなかにも入っている。一貫性を持ったAIを、継続的に市場に提供していくという意味でも重要な技術だ。これを市場のなかに浸透させ、拡散させることを楽しみにしている」と話す。

そして「IBM Automationへの実装については、まだ公開できるロードマップはないが、IBM watsonxは急激な勢いで進化するものになるだろう。watsonx.ai、watsonx.data、watsonx.governanceが連携しながら、お客さまのフィードバックにあわせてリソースの活用や提案をすることになる。しかし、デジタルレイバーやアプリケーションモダナイゼーションなどの領域において、IBM watsonxの革新的な機能を実装しても、IBM Automationの姿や役割は変わらない」と述べた。

今後、IBM Automationにどんな形でIBM watsonxが実装されるのか。それによって、どんな進化を遂げるのかが楽しみである。