米IBMは5月9日~11日(現地時間)の期間で開催する年次イベント「Think 2023」において、企業が信頼できるデータを用いてAI活用の拡大・加速を可能にする、AIとデータプラットフォームである「IBM watsonx」を発表した。
「IBM watsonx」を発表
IBM watsonxは、同社がキュレーションし学習した基盤モデル(Foundation Model)とオープンソースモデルにアクセスできるAI開発ツール群、データを収集してクレンジングするためのデータストアへのアクセス、企業自身のAI活用に向けたAIガバナンスのためのツールキットを提供。
AIの適用と拡張を容易にするシームレスなエンドツーエンドのAIワークフローを提供するという。
企業はツール、テクノロジー、インフラ、コンサルティングの専門知識を利用し、自社のデータで独自のAIモデルを構築、または既存のAIモデルを微調整(ファイン・チューニング)して適応させ、信頼できるオープンな環境で大規模に展開することを可能としている。
IBM watsonxプラットフォームは「IBM watsonx.ai」「IBM watsonx.data」「BM watsonx.governance」の3つの製品群で構成。
IBM watsonx.ai
IBM watsonx.aiは、従来の機械学習と基盤モデルを活用した新しい生成AI機能の両方を学習・検証・調整・導入できるAI構築のための企業向けスタジオ(ツール・機能群)。2023年7月からの提供開始を予定している。
AIスタジオは、データの準備からモデルの開発、展開、モニタリングまで、データとAIのライフサイクル全体を促進するさまざまな基盤モデル、学習と調整のツール、インフラなどを提供。また、基盤モデルライブラリが含まれており、ユーザーは同社がキュレーション・学習した基盤モデルに簡単にアクセスすることができる。
IBMの基盤モデルは、堅牢なフィルタリングとクレンジングプロセス、監査可能なデータリネージュにより、大規模な企業データのキュレーションセットを使用しているという。一部のユーザーにベータ版技術プレビューとして提供する基盤モデルの初期セットは「fm.code」「fm.NLP」「fm.geospatial」となる。
fm.codeは、開発者の生産性を向上させるほか、多くのIT業務を自動化できるよう、自然言語インタフェースにより、開発者がコードを自動生成できるように構築されたモデル。
fm.NLPは特定のドメインや業界固有のドメインのための大規模言語モデル(LLM)のコレクションで、バイアス(偏り)を簡単に軽減できるキュレーションデータを使用し、ユーザーのデータを利用して迅速にカスタマイズすることが可能。
fm.geospatialは気候やリモートセンシングデータを基に構築したモデルで、自然災害のパターン、生物多様性、土地利用などビジネスに影響を与える可能性のある地球物理学的プロセスの変化を理解し、備えることを支援するという。
また、watsonx.aiスタジオは機械学習 アプリケーションを作成するためのツールを開発する米Hugging Faceのオープンソースライブラリをベースに、Hugging Faceの数千超のオープンモデルやデータセットの提供を予定している。
IBM watsonx.data
IBM watsonx.dataは、管理されたデータとAIワークロードに最適化され、オープンレイクハウスアーキテクチャ上に特定の用途向けに構築したデータストア。クエリ、ガバナンス、オープンデータ形式によるデータのアクセスと共有に対応し、2023年7月からの提供開始を予定。
オンプレミス環境とマルチクラウド環境の両方でワークロードを管理することができ、ワークロードの最適化により、組織はデータウェアハウスのコストを最大50%削減することが可能だという。
watsonx.dataにより、ユーザーは単一のエントリーポイントから堅牢なデータにアクセスすることができると同時に、目的に応じた複数のクエリエンジンを適用して洞察を得ることを可能としている。さらに、組織の既存データベースの自動化、統合などのガバナンスのためのツールとセットアップや、ユーザーエクスペリエンスを簡素化するツールを組み込んで提供する。
IBM watsonx.governance
IBM watsonx.governanceは、信頼できるAIワークフローを実現するAIガバナンス・ツールキットとなり、2023年後半からの提供開始を予定している。
同ソリューションはガバナンスの運用を可能とし、手動のプロセスに関連するリスク、時間、コストを軽減して、透明性があり説明可能な成果の導出に必要なドキュメントを提供することを可能としている。
加えて、顧客のプライバシーを保護し、モデルのバイアスや精度の低下を能動的に検出し、組織が倫理基準を満たすための仕組みを提供するという。
AI導入を促進するためのオファリングも発表
そのほか、同社では主要なソフトウェア製品にwatsonx.aiの基盤モデルの実装を計画している。「Watson Code Assistant」は生成AIを活用し、開発者が英語の簡単なコマンドでコードを自動生成できるようにするソリューションとなり、提供開始は2023年後半を予定している。
「AIOps Insights」は、コードとNLPのための基盤モデルで強化されたAI運用(AIOps)機能でIT環境全体のパフォーマンスの可視性を高め、IT運用(ITOps)マネージャーとサイトリライアビリティーエンジニア(SRE)が、迅速かつコスト効率の高い方法で障害を解決できるようにするとしている。
「Watson Assistant」と「Watson Orchestrate」は従業員の生産性と顧客サービス体験の向上に向け、NLP基盤モデルと組み合わされる予定。「Environmental Intelligence Suite(EIS)では地理空間基盤モデルを搭載し、企業が独自の目標やニーズに基づき、環境リスクに対処し低減するための、カスタマイズされたソリューション構築を可能とし、2023年後半にはプレビュー版の利用が可能になるという。
一方、Think 2023においてAIの導入を促進するためのオファリングの発表も予定している。IBM Cloud上の新しいGPUオファリングとして、さまざまな基盤モデルへのニーズに対応するため、IBM Cloud上で基盤モデルの学習と推論サービスの両方に対応したフルスタックのAI最適化インフラをサービスとして、提供を予定。
さらに、1,000人以上の生成AI専門家を擁する「IBM Consulting Center of Excellence for Generative AI」を設立。ユーザー向けに積極的にwatsonxを構築・展開する、watsonxに特化したプラクティスの編成を計画しており、すでにIBM Watsonやエコシステムパートナーのポートフォリオを活用し、生成AIを導入するための契約を数十の顧客と締結している。
加えて、ハイブリッド/マルチクラウドに関連する炭素排出量の測定・追跡・管理・報告を支援するAIにもとづく、ダッシュボードとして「IBM Cloud Carbon Calculator」を2023年後半の提供開始を予定。
同ダッシュボードは、IBM Envizi ESG Suite、IBM Turbonomic、IBM Planning Analytics、IBM LinuxONEといったテクノロジーや専門知識の包括的なポートフォリオで構成される同社の既存サステナビリティソリューションを補完し、組織がサステナビリティ、ビジネス目標を加速できるよう支援するという。
米IBM 会長兼CEOのアービンド・クリシュナ(Arvind Krishna)氏は「基盤モデルの開発により、ビジネスのためのAIはこれまで以上に強力になります。基盤モデルによって、AIの導入が大幅に拡大され、簡単かつ効率的になります。私たちは、お客さまが単に利用するだけではなく、AIを活用できるようになるために企業のニーズに合わせてIBM watsonxを提供します。IBM watsonxを利用することで、お客さまはデータを管理しながら、ビジネス全体にわたり自社向けのAI機能を迅速に学習・展開することができます」と述べている。