静岡大学(静大)と名古屋市立大学(名市大)の両者は6月1日、光を当てないで(物理的相互作用をしないで)物の存在と位置を同時に判定できる量子光学的手法の開発に成功したことを共同で発表した。
同成果は、静大大学院 総合科学技術研究科の中村圭吾大学院生、同・杉尾大輝大学院生、同・真鍋貴大大学院生、同・冨田誠教授、名市大大学院 芸術工学部の景山明里氏、同・大学院 芸術工学研究科の松本貴裕教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
「量子尋問」ともいわれる量子力学的な相互作用の無い測定は、1光子の吸収が無いにもかかわらず、吸収している物体を光学的に検出することが可能だ。最初の測定(仮想実験)は1990年代前半に、マッハツェンダー干渉計を用いた経路上に物体を挿入することで行われた。しかし、この時に用いられた手法では、物体の存在を示せる確率は25%程度と非常に低く、また、物体がどこに存在するのか(2つある経路のうちのどちらか)も断定できなかった。
こうした背景の下、研究チームは今回、光ファイバを用いたリング型共振器を多数列接続することによって、光を当てないで、リング型共振器のどの位置に物体が置かれているのかを100%の確率で判定できる量子光学的手法を開発したという。
今回開発された手法では、リング型共振器を縦に配置する。共振器は最下層のもの(共振器1)が右側、その1つ上(共振器2)が左側、さらにその上(共振器3)が再び右側と、左右に互い違いにずらして共振器5まで縦に並べる。
そして、共振器1の上部頂点と共振器2の下部頂点をつなぐ形で、右から左へと光子が進むための直線経路を用意し、共振器2の下部頂点の左に直進すると光検出器のPort2がある。同様に、共振器2の上部頂点と共振器3の下部頂点は、左から右へと向かう直線経路で接続され、共振器3の下部頂点の右にはPort3がある。こうして、共振器4と5をつなぐPort5へ向かう経路までを用意。さらに、共振器1の下側には下部頂点のみを左から右へと通ってPort1へと向かう経路(Input Port)を、共振器5の上側には上部頂点のみを右から左へと通ってPort6(Final)へ向かう経路も用意する。
これらの構成は、共振器の干渉効果を利用することにより、まず1光子がInput Portから入射された場合、どの共振器にも物体が無い場合はPort6にまで到達する仕組みだ。つまり、Port6の光検出器が1光子を検知すれば、この共振器内に物体が無いことを100%の確率で示すことができるのである。
一方、いずれかの共振器のどこかに物体が配置された場合は、そのPortから先のリング型共振器の干渉が破壊されるため、物体より手前に配置されたPortの光検出器が1光子を検出することになる。仮にPort4とPort5の間のリング型共振器内に物体が配置されている場合、Port4の光検出器が1光子を検出することになるので、100%の確率で物体がPort4とPort5の間に配置されたことが確認できるという仕組みだ。
また、リング型共振器を利用することによって、上述の物体検出以外にも、物体に埋もれた中から抜け穴を探すような応用が可能となるという。この場合は、共振器1から5までを左から横に並べる。各共振器の下側にはそれぞれの下側頂点をつなぐ形で共振器1の左側のInput Portから共振器5の右側のFinal Portまで一直線の経路がある。そして共振器1の上部頂点からはPort1へ、共振器2の上部頂点からはPort2へという具合で、共振器ごとに独立した形でPortへと向かう構成だ。
この構成を利用すると、たとえば、1光子を吸収したら爆発してしまうような物体が1、2、3、5に配置してあるとすると、光を当てないでどの位置から逃げることができるかを100%の確率で示すことが可能となるという。
今回の研究成果は、たとえばエネルギーが高く、物体を破壊しやすいX線などにおいても、X線を当てないでも物体の存在および位置情報を得ることができる技術につながることから、将来のより安全なX線撮影技術に大きく貢献できるものと考えているとする。また、現在開発が盛んに行われているマイクロ光デバイス(微小球や微小リング共振器が多数並んだ構造)へ応用することによって、微弱な光照射でも壊れてしまう分子や生体物質の分析や画像計測技術の発展にも大きく寄与できるものと考えているとしている。