京セラは2023年5月10日、繊維・アパレル向けデジタル捺染プリンタ分野への参入を表明。第一弾として、生地に模様を印刷する捺染時の水質汚染などの課題を解決できるインクジェット捺染プリンタ「FOREARTH(フォレアス)」を開発したことを発表した。

  • インクジェット捺染プリンタ 「FOREARTH」

    京セラのインクジェット捺染プリンタ 「FOREARTH」

繊維・アパレル業界は、生地を染める際、スチームや洗浄などの工程で大量の水を使用するため、その排水による水質汚染が世界的な問題となっており、同業界が世界の水質汚染の20%を占めるとも言われているほか、CO2の排出量の10%を占めるとも言われている。また、在庫過多による大量廃棄も問題視されており、そうした課題の解決が求められつつある。

フォレアスはそうした繊維・アパレル業界が抱える環境問題を解決しつつ、持続可能な産業とするべく開発されたプリンタ。元々、染料系に比べ水で洗う必要がないため水使用量が少ない顔料系インクを採用し、かつさらなる水使用量削減を図るために生地送りベルトの洗浄水を循環式にするなど、徹底した水の使用量の削減をしつつ生地印刷を可能としたという。

  • 水使用量の比較

    水使用量の比較。染料インクのアナログ捺染の場合、生地1kgあたり153Lに対し、フォレアスでは乾燥工程などが不要な顔料インクということと、生地送りの際の洗浄水のリサイクルなど、徹底的に水使用量を削減することで、生地1kgあたり0.02Lで済むという

また、その顔料インク、前後処理液、後処理液を独自開発しインクに含まれるバインダーの量などの最適化を図ることで、生地の風合いが染料系に劣るとされていた課題を克服。染料系と同等の品質に仕上げることを可能としたほか、その印刷機構についても最適化を図ったプリントヘッドを開発することで水性顔料インクながら、柔らかな風合いと、高い堅牢性を両立させることに成功したとする。その結果、システムやインクの変更なしに、綿、シルク、ポリエステル、ナイロン、混紡など多種多様な生地への高精細な印刷を可能とし、レディースファッションから、スポーツウェア、ベビーウェア、ホームテキスタイルまで幅広いカテゴリで利用できるようになったとする。

  • フォレアスで印刷した生地の見本
  • フォレアスで印刷した生地の見本
  • フォレアスで印刷した生地の見本

フォレアスのプリントヘッドは最大18本装備可能で、色数は最大8色(CMYK+4色の特色、インクタンク容量は10L)。最大印刷幅は1800mm、最大布幅1850mm、解像度600×600dpiで250m2/h(標準モード)の印刷速度を実現したとする。

さらに、筐体サイズもプリンタ内に処理液の塗布機構も内蔵することで、水の使用シーンの削減と合わせ、アナログ捺染で必要とするような数十m、長いものでは100mを超すような工程を排除。10m程度で工程を終えることができるため、ニアショア・オンショアにて小ロット印刷や短納期対応といったニーズにも対応可能だとしており、物流コストや余剰在庫の削減を図ることもできるとしている。

  • 工程長さ比較

    従来の捺染ソリューションとフォレアスとの工程長さ比較

なおフォレアスは2023年秋ごろに先行販売が開始される予定だが、同社では2027年までに100億円規模の売り上げ、中長期的な視点として、将来的には1000億円規模の事業の育てていきたいとの期待を述べており、京セラドキュメントソリューションズの有する世界の販売網などを活用していきたいとする。すでに欧州のアパレルメーカーやプリントファクトリーが興味を示していることもあり、4年に1度、イタリアのミラノで開催される世界最大級の国際繊維機器展示会「ITMA 2023」(会期:2023年6月8日~14日)に出展し、国立ロンドン芸術大学(UAL)をはじめとする複数機関とのコラボレーション展示なども行う予定としている。