光センサとしてD-Eggの要となる光電子増倍管(PMT)は、カミオカンデやスーパーカミオカンデのニュートリノ観測で実績のある浜松ホトニクス製のものが採用された。DOMでは下向きに1つだけ内蔵されているPMTだが、D-Eggでは上下に2つ設置。これにより、チェレンコフ光の検出可能範囲が広がり、検出効率を上げると同時に、感度の角度依存性を減少させ、光子の飛来方向の測定誤差を低減させることが可能になったという。

そのPMTを格納する耐圧ガラス容器は、岡本硝子に製造が依頼された。埋設される際、D-Eggには70MPa(深海7000m水圧相当)もの圧力がかかる。それに耐えうる深海実験向けに開発された耐圧ガラスをもとに、紫外線領域の透過度を改善し、放射線雑音の原因となる不純物の少ない材料を用いた新型の容器が開発されたとのことだ。

さらに、PMTを耐圧ガラス球に接着し、ニュートリノからの貴重な紫外光をもれなくセンサ感度面に送り届けるシリコーンは、信越シリコーンによって特別に開発されたという。

  • D-Egg検出器の内部。光電子増倍管(PMT)2機のほかに複数の基板とカメラやLEDライト、そしてデータを通信するケーブルなどが内蔵されている。外側には耐圧ガラスとシリコーンゲルが設置される。

    D-Egg検出器の内部。光電子増倍管(PMT)2機のほかに複数の基板とカメラやLEDライト、そしてデータを通信するケーブルなどが内蔵されている。外側には耐圧ガラスとシリコーンゲルが設置される。(c)IceCube Collaboration(出所:千葉大 ICEHAP Webサイト)

デバイス性能を最大限に活かすこれらのモジュール設計は、深海設置の地震計製作などに実績がある日本海洋事業(NME)の協力で施され、製造作業も同社が所有する福浦整備場にて行われた。D-Eggの組み立てに必要な製造ラインは、不純物の混入を防ぐためのクリーンブース内に整えられ、千葉大の研究者や大学院生がNMEの技術者と共に組み立てに従事したとする。

D-Eggの製造は2019年に開始され、台風によるクリーンブースの浸水被害やコロナ禍の影響などさまざまな困難に見舞われながらも、当初の予定通り2021年の10月に320台すべてのD-Eggが完成したという。それに加え、その性能と開発の早さが評価され、IceCubeアップグレード計画における主要光検出器として埋設されることが決定された。

なお320台のD-Eggは現在、南極の-40℃での稼働を想定した耐久試験や、ニュートリノ検出の性能試験などが行われている最中。南極点への輸送は2024年夏に開始される予定だ。

アップグレードは2026年に完了する予定で、次世代計画のIceCube-Gen2の建設は、2027年から約8年間かけて実施される予定となっている。IceCube-Gen2では、現在の約8倍の体積の氷河中に約1万台の光検出器を埋設することで、宇宙ニュートリノ点源検出感度を5倍以上に向上させる見込みだといい、これにより、より多くのニュートリノ起源天体を同定することを目指すとしている。またD-Eggは、このIceCube-Gen2でも重要な役割を担うとのことだ。

  • IceCubeアップグレード(2025~)と、IceCube-Gen2(2027~)のイメージ。アップグレード(左)では、IceCubeの中心に埋設されているDOM光検出器の間を埋めるように新型光検出器が700台が新たに埋設される。IceCube-Gen2(右)では、IceCube(赤色の部分)を包み込むように新たな光検出器約1万台が埋設され、8倍の大きさに拡張される。

    IceCubeアップグレード(2025~)と、IceCube-Gen2(2027~)のイメージ。アップグレード(左)では、IceCubeの中心に埋設されているDOM光検出器の間を埋めるように新型光検出器が700台が新たに埋設される。IceCube-Gen2(右)では、IceCube(赤色の部分)を包み込むように新たな光検出器約1万台が埋設され、8倍の大きさに拡張される。(c)IceCube Collaboration(出所:千葉大 ICEHAP Webサイト)

  • 320nm(左)、400nm(中央)、およびチェレンコフ平均感度比(右)における入射光子の天頂角の余弦の関数としてのD-EggとDOMの有効面積の比較。下向きはθ=0(cosθ=1)と定義される。

    320nm(左)、400nm(中央)、およびチェレンコフ平均感度比(右)における入射光子の天頂角の余弦の関数としてのD-EggとDOMの有効面積の比較。下向きはθ=0(cosθ=1)と定義される。(c)IceCube Collaboration(出所:千葉大 ICEHAP Webサイト)