千葉大学は5月9日、南極点で宇宙から飛来する高エネルギーニュートリノを観測する国際共同研究プロジェクト「IceCube(アイスキューブ)」用に、現行品から光検出感度を約3倍に向上させた新型モジュール「D-Egg」を320台製造し、それらを2024年に南極点に輸送することを発表。またその性能検証結果も併せて発表した。
同成果は、千葉大 ハドロン宇宙国際研究センター(ICEHAP)の吉田滋教授および石原安野教授らを中心とした研究チームによるもの。詳細は、検出器物理学や加速器科学などに関連する学術誌「Journal of Instrumentation」に掲載された。
2005年より部分的に稼働を始め、2011年にフル観測を開始したIceCubeは、南極点で稼働中の世界最大の宇宙ニュートリノ観測実験だ。宇宙から地球に届いたニュートリノは、希に氷中の原子核や電子と衝突することがあり、その際にチェレンコフ光という青い光が放射される。現在は、南極点直下の氷中1500m~2500mの深さに埋設された球状の光検出器モジュール「DOM」5160台で観測網(アレイ)が構築されており、複数のDOMが連続して光を検出することで、ニュートリノの進行方向などが間接的にわかる仕組みだ。
IceCubeでは現在、最新の光検出器を導入するアップグレード計画が進められている。IceCubeは次世代建設プロジェクトとして「IceCube-Gen2(ジェンツー)」の建設が2027年に開始するが、今回の2025年から始まるアップグレードは、そのフェーズ1にあたる。DOMのアレイの間に、320台のD-Eggを含む約700台の高性能光検出器モジュールと較正装置を高密度に配置することで、幅広いエネルギーのニュートリノ検出を実現し、到来方向の角度分解能も向上させるというものだ。
D-Eggに求められるのは、氷河深くに埋設されても問題のない耐圧性能と、より微弱な紫外光も検出できる高い感度だ。また、埋設には多くの費用がかかるため、コスト低減のためにモジュールを小型化する必要もあり、D-Eggの開発は決して容易ではなかったという。千葉大はこれらの課題に対して、技術力を有する複数の国内企業と手を組んで製作にあたったとする。