東京農工大学(農工大)は5月8日、有機化合物の代名詞的存在である「ベンゼン」を、光エネルギーを用いた穏やかな反応で有用な物質へと変換する手法を開発したと発表した。

同成果は、農工大大学院 生物システム応用科学府食料エネルギーシステム科学専攻の中山海衣大学院生(研究当時)、同・大学院 農学研究院 応用生命化学部門の岡田洋平准教授らの研究チームによるもの。詳細は、有機化学の基礎分野を扱う学術誌「The Journal of Organic Chemistry」に掲載された。

ベンゼンは、極めて安定で反応性に乏しいことが特徴だ。そのため、有用な物質へと変換させるためには、一般に毒性の高い試薬や高価な遷移金属触媒を用いて加熱する必要があるなど、環境負荷が高いことが課題となっている。もし電気や光などの持続可能なエネルギーを用いる穏やかな反応でベンゼンを有用な物質へと変換できれば、医薬品などの原料としての活用も期待できるという。

これまで、電気や光などを活用した有機合成化学における新手法の開発に取り組んできたのが研究チームだ。今回の研究では、光エネルギーを用いた穏やかな反応で、極めて安定なベンゼンを有用な物質へと変換する技術の開発に取り組んだとする。

有機合成化学の分野においては近年になって、古くから用いられてきた穏やかな反応剤「2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン」(DDQ)が、光を浴びることによってベンゼンを効率的に有用な物質へと変換できることが報告されていたとする。ただし、従来の技術では1つのベンゼンと1つのDDQが反応するため、ベンゼンと同じ数だけDDQが必要なことが課題だった。そこで今回の研究では、このような変換技術をより環境負荷の小さいものへと発展させるため、DDQ使用量の削減が目標とされた。

  • 可視光とDDQを用いるベンゼンの変換技術(従来法)

    可視光とDDQを用いるベンゼンの変換技術(従来法)(出所:農工大Webサイト)

研究チームがさまざまな反応条件を調べた結果、用いる光の波長を可視光から紫外光にするだけで、必要なDDQの量を5分の1以下に削減できることが見出されたとする。なお、詳細なメカニズムはまだ解明されていないが、反応に用いるわずかな光の波長の違いがこれだけ大きな影響を及ぼしたことは予想外のことだとしている。

  • 今回の研究による紫外光とDDQを用いるベンゼンの変換技術

    今回の研究による紫外光とDDQを用いるベンゼンの変換技術(出所:農工大Webサイト)

研究チームは今回の研究成果について、極めて安定で反応に乏しいベンゼンの、医薬品などの原料としての活用につなげられる可能性があるとしており、詳細なメカニズムの解明によってこの変換技術が発展することが期待されるとした。