3Dプリンターの使用率はややトーンダウン

だが、ロケットの見た目以上に特筆すべきは、3Dプリンターによる製造に必ずしも拘らないアプローチを取るという点である。

前述のように、同社は“ロケットを丸ごと3Dプリントする”ことを売りにしており、他社にない独自性で、投資家などへのアピールポイントでもあった。実際、テラン1の大半は3Dプリンターで製造された。

しかし、テランRにおいては、“ロケットを丸ごと3Dプリントする”という目標からは大きくトーンダウンした。

同社は声明で「テラン1で3Dプリンター製ロケットの実現可能性を証明することに成功したあと、大規模な3Dプリンターで可能なことを再定義することに継続的に注力しています」という、やや回りくどい表現を使って説明している。

実のところ、同社はテラン1を3Dプリントした際、ひび割れなどの品質問題を抱えていたことが知られている。おそらくはテラン1の開発を通じて、ロケットの大半を3Dプリンターで製造することの限界や、少なくとも万能な方法ではないということを学んだものとみられる。

同社によると、3Dプリンターを使うこと自体を放棄したわけではなく、テランRは引き続き「3Dプリント・ロケット」だとしている。たとえば推進剤タンクの端にあるドーム部や、エアオーンRのエンジンの製造などには3Dプリンターを用いるとしている。

ただ、エンジンなど個々の部品の製造への3Dプリンターの使用は、他国や他社でも研究されたり、すでに導入されたりしつつあり、目新しいものではない。

また、テランRの初期バージョンでは、タンクも従来どおりの加工方法で造ったものになるという。これは、テランRクラスの大型ロケットが、市場から強く、早急に求められているためとしている。すなわち、開発や製造の早さという点でも、現時点の3Dプリント技術は、従来の製造方法よりまだ劣っていることを示唆している。

  • テランRに使われる「エアオーンR」ロケットエンジン

    テランRに使われる「エアオーンR」ロケットエンジン。その製造には3Dプリンターが使われる (C) Relativity Space

大型ロケット開発競争と、3Dプリント・ロケットの行方

今回の発表からみえてくるのは、ロケット・ベンチャーが軒並み大型ロケットを志向しつつあるという現状である。

過去10年ほど、米国をはじめ世界中で、小型衛星の打ち上げに特化した超小型ロケット(マイクロ・ローンチャー)を開発する企業が雨後の筍のように出てきた。米国の「ロケット・ラボ」が開発した「エレクトロン」は市場で圧倒的な存在感を示し、同じく米国の「ファイアフライ・エアロスペース」は2022年10月に初の打ち上げ成功を果たしている。

しかし、ロケット・ラボは最近、大型ロケット「ニュートロン」の開発に力を入れており、ファイアフライも中・大型ロケット「MLV」の開発に軸足を移している。つまり、超小型ロケットの開発や運用から抜け出して、より大型ロケットを開発しようという動きは、レラティビティだけでない、他のベンチャーも含めた一種の流行となっている。

この背景の1つには、超小型ロケットの市場が当初の期待ほどは伸びていないという現状がある。この市場は事実上、ロケット・ラボが独占しているほか、小型・超小型衛星の打ち上げをめぐっては大型ロケットのファルコン9による相乗り打ち上げ(まとめ打ち上げ)も活発となっている。超小型ロケットを運用していたヴァージン・オービットがこの4月に破産したことにも、それが表れている。

一方、中型・大型クラスのロケットであれば、小型衛星も打ち上げられるほか、中型・大型衛星の打ち上げ受注の獲得も狙える。この市場もスペースXのファルコン9のシェアが大きいが、まだ市場拡大と、なにより新規参入の余地がある。

たとえば、ロケットの分野では“老舗”である米ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)の大型ロケット「ヴァルカン」ロケットや、ベンチャーのブルー・オリジンの大型ロケット「ニュー・グレン」は、開発がもう何年も遅れている。他国に目を向けても、欧州の「アリアン6」、日本の「H3」も、開発や運用開始が遅れている。

つまり、レラティビティが予定どおり2026年にテランRを市場に投入できれば、他の大型ロケットとほぼ同じ時期のデビューとなり、価格や信頼性などをめぐる競争において、同じ位置からスタートできることになる。そして、価格や信頼性で他のロケットを上回ることができれば、ファルコン9に次ぐ地位を狙えるばかりか、ファルコン9を討てる可能性も見えてくる。

テランRは実質的にファルコン9をもとにした、いわばコピーのようなロケットではあるものの、だからこそ、ファルコン9の二匹目のドジョウを狙える可能性があり、そのうえで“ファルコン9キラー”となれる可能性もあると言えよう。

ただ、レラティビティには、スペースXを率いるイーロン・マスク氏ほどの資金力はなく、投資も、技術者の数も少なく、施設設備の規模もまだ小さい。今後、数年という短い時間の中で、テランRほどの大型で複雑なロケットを開発、運用できるほどのリソースを揃えられるかが1つの焦点となろう。

そこにおいて、あらゆる点で省力化が期待できる3Dプリント技術は、こうした状況をひっくり返す要素になり得たが、現状ではそれは期待できそうにない。ただ、宇宙に限らずものづくり全般において、3Dプリンターに大きな将来性があることは論をまたず、レラティビティも将来的には、ふたたび3Dプリンターを大きく活用することになるかもしれない。

レラティビティは今後、老舗もベンチャーも挑む大型ロケットの開発競争でどう戦っていくのか、そして、どこかでふたたびオール3Dプリンター製ロケットという夢をよみがえらせることになるのか。大型ロケットの開発、市場競争という点でも、そして純粋にものづくりの将来という点でも、その行方に注目したい。

  • テランRの部品と並ぶ、レラティビティのティム・エリスCEO

    テランRの部品と並ぶ、レラティビティのティム・エリスCEO (C) Relativity Space

参考文献

Relativity Space Shares Updated Go-to-Market Approach for Terran R, Taking Aim at Medium to Heavy Payload Category with Next-Generation Rocket
Relativity SpaceさんはTwitterを使っています: 「“Good Luck, Have Fun” First Flight update.」 / Twitter