モデルナとIBMは米国現地時間4月20日、モデルナのメッセンジャーRNA(mRNA)の研究およびサイエンスの進展・加速に向け、量子コンピュータや人工知能(AI)などの次世代技術を探索することで合意したことを共同で発表した。

  • モデルナは、IBMの量子コンピュータとAI技術を用いて核酸医薬の研究を進めていくとした

    モデルナは、IBMの量子コンピュータとAI技術を用いて核酸医薬の研究を進めていくとした(出所:日本IBM Webサイト)

量子コンピュータはまだ発展中のコンピュータであるが、将来的には古典(既存)コンピュータの性能を大きく上回ると期待されている。プロセッサが扱える量子ビットが増えれば増えるほど性能が向上するが、IBMが発表したロードマップによれば、最新のプロセッサ「Osprey」は433量子ビットだが、2023年中に1121量子ビットのプロセッサを発表する見込みで、さらに2025年には4158量子ビットのプロセッサの実現も予定している。

  • 2022年5月に発表されたIBMの量子コンピュータの開発ロードマップ

    2022年5月に発表されたIBMの量子コンピュータの開発ロードマップ(出所:日本IBM Webサイト)

今回の合意により、モデルナの科学者は、古典的なコンピュータでは解決できなかった問題に量子技術をどのように適用するかという知識や経験を身に着けていくといい、両者は、モデルナの科学的課題に対する量子技術の応用の可能性を探っていくとする。

またモデルナは、「IBM Quantum Acceleratorプログラム」および「IBM Quantum Network」への参加も予定しているといい、今回の契約に基づき、IBMは量子コンピューティング・システムへのアクセスや専門知識を提供し、モデルナが量子技術を活用した最先端のライフサイエンス分野のユースケースを探求するのを支援するとしている。

さらに、モデルナとIBMの科学者は、科学者が分子の特性を予測するのに役立つAI基盤モデルである「MoLFormer」を適用し、潜在的なmRNA医薬品の特性を理解できるようにするという。モデルナの目標は、体内を移動するmRNAを包み込んで保護する脂質ナノ粒子と、病気と戦うための細胞への指令として機能するmRNAの最適化にMoLFormerを活用することとしており、このイニシアチブのもと、モデルナとIBMは、最先端の製剤発見スキルと生成AIを組み合わせ、最適な安全性と性能を持つmRNA医薬品の設計を行うとする。

モデルナのステファン・バンセル最高経営責任者(CEO)は、今回の合意に対し、「創業以来、モデルナは常に最先端技術の最前線に立つことを目指し、mRNA医薬品を通じて人々に最大限のインパクトを与えることができるよう、イノベーションを活用してきた。IBMとの協業のもと、mRNAサイエンスを発展させる画期的なAIモデルを開発し、量子コンピューティングの時代に備え、これらの既存の概念を変える可能性のある技術にモデルナのビジネスを対応できるようになることを嬉しく思う。モデルナは、量子コンピューティングを活用した多数の画期的な進展を目指しており、この技術の活用に向けた準備を万全にするため、量子人材の開発に投資をしている」とコメント。

一方、IBMのダリオ・ギル シニア・バイス・プレジデント(IBM Researchディレクター兼任)は、「IBMのパーパスは、『世界をより良く変えていくカタリスト(触媒)になる』であり、今回のモデルナとの協業はこのパーパスを実証するものだ。現在、AIと量子コンピューティングの驚異的な進展によって、コンピューティングの世界では革命が起きている。モデルナは、複数年にわたるIBMの治療薬向け生成AIに関する研究成果を活用することで、科学者が分子の挙動をより良く理解し、まったく新しい分子の創出を促進できるようになる。また、モデルナと協力して、新しい治療薬の発見と創出を加速することを目標に、モデルナの科学者が、IBMの量子コンピューティング技術に関する知識や利用方法を習得できるよう支援できることを嬉しく思う」と述べている。