日本オラクルは4月14日、「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」を開催した。日本オラクルが対面形式の大規模イベントを開催するのは約3年ぶりだ。基調講演では、日本オラクル 取締役執行役社長の三澤智光氏が顧客との対談を披露。本稿では、オフィス家具を展開するイトーキとの対談内容を紹介する。
1890年に創業し(当時は伊藤喜商店)、今年で133年目を迎えるイトーキ。日本企業のオフィス空間を支えてきた老舗企業は、どのようにDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいくのか。代表取締役社長の湊宏司氏が、イトーキにとってのDXを語った。(トヨタ自動車との対談記事はこちら)
オフィス3.0時代を実現するDX
イトーキはオフィス家具だけでなく、新しい働き方の提案や、「どの家具をどの位置に配置したほうがいい」といった、オフィスコンサルティングなどを提供している。
そんなイトーキが実現したいのは、「オフィス3.0の時代」。
「家具を製造・販売するプロダクトベースの商品販売事業を行う時代がオフィス1.0だとすると、空間ベースのソリューションを展開する時代がオフィス2.0。そして、オフィス3.0は、働き方ベースのオフィスDX事業を推進する時代だ」と、湊氏は説明した。
オフィス3.0の時代では、オフィス家具そのものをIoTデバイスとみなし、そこから得られるさまざまなデータを生かし、新しい働き方へとつなげていく。現在はそういう時代に突入していると、湊氏は語った。
「私は、オフィスを『生産性を向上させるための空間』と定義している。これはいつの時代も変わらない。例えば、個々人が決まったことをきちんとやり遂げることが重要であったバブル期では、島形対向にレイアウトした固定席が最適だった。そして、これからの時代はビジネスの変革や社員のウェルビーイングが重要なテーマであり、そのなかで生産性を上げるためには、ITやAIとの連携が不可欠だ」(湊氏)
そこで同社では、顧客のオフィスで生まれるさまざまなデータを分析し、その結果をもとにした最適なオフィスを提案している。例えば、オフィス家具や椅子にIoTセンサーを組み込み、社員の移動履歴やフロアの使用率などを計測している。
また、空間デザイナーが年間5000枚程度作成するオフィスレイアウトの3D CADデータをAIに読み込ませ、「間仕切りを外すことで光熱費はどれだけ削減できるのか」「社員の生産性やモチベーションが向上するレイアウトはどのようなものか」といったことを試算するアプリケーションを開発している。
なぜ基幹システムにSaaSを選んだのか?
こうしたサービスを安定的に提供するために、同社では基幹システムに「Oracle Fusion Cloud ERP」を採用し、クラウドシフトを積極的に進めている。
湊氏は、SaaSを採用した理由の一つに「イニシャルコストを抑えられる」ことを挙げた。
「『ITで業務を改善できる』という概念がまだまだ定着していないため、スモールサクセスを積み上げていく事が重要だと考えた。慣れている業務の変革を嫌う現場担当者は少なからずいる」と、湊氏はリアルな現状を説明した。
2つ目の選定理由は、「アップグレードの呪縛から解放されるから」だという。「オンプレミスでは、5年に1度のタイミングで大幅なシステム刷新をしなければいけない。SaaSであれば四半期ごとのアップグレードで最新技術を活用できる」(湊氏)
オラクルを選定した理由は「柔軟性」
では、あらゆるSaaSが存在する中で、なぜオラクルのクラウドを選定したのだろうか。
この問いに対して、湊氏は、「国内外で実績であるクラウドだから。ベストプラクティスがあるのは心強い。セキュリティ面も安心。そして何より、SaaSでありながら柔軟性がある点を高く評価した」と答えた。
イトーキは長い歴史を持つ会社で業界自体も古いため、取引のなかで「手形」や「FAX」は現役で使われている。同社が導入したOracle Fusion Cloud ERPはSaaSではあるが、IaaS/PaaS(Oracle Cloud Infrastructure)上で開発した独自のアプリケーションと連携させることで、イトーキ独自のプロセスも柔軟に処理ができるとのこと。
「市場を徹底的に調査し、さまざまなベンダーと意見を交わしあったが、結果的にオラクルのクラウドを選定した」(湊氏)
そして、湊氏は今後の展望について、「オフィス3.0を加速させていきたい。構想から実装ベースにしていくことが喫緊の課題だ。オラクルのクラウドでCO2排出量を自動算出する機能を実装するなど、ESGにも取り組んでいきたい」と説明していた。