「今後3年間で、海外で4000人、国内で1000人、計5000人の人材を増強する」ーー3月某日、報道各社による合同取材で、パナソニック エナジー 常務執行役員 CHRO(最高人事責任者)の三木勝氏はこう語り、急激な事業成長の変化に対応するための人材戦略を説明した。
同社は、中期事業戦略において、2021年度の売上高7644億円から2026年度にかけて年平均10%以上の成長を、また、2021年度に16%だったEBITDA率を2026年に20%まで引き上げるという経営目標を掲げている。
中でも大きな成長を見込むのが、車載電池だ。2028年度までにグローバルでの生産能力を2022年度比で約3~4倍に引き上げ、車載電池の成長により、2030年度までにCO2削減量を約5倍にすることを目指している。
「急成長するエナジー事業成長を支える新たな人事戦略が必要だ。成長スピードが早く、質や量のリソースの課題が顕在化してきている。そのため、外部からの人材獲得や、人事制度や風土改革を含めた人事マネジメントの改革が急務となっている」と、三木氏は語った。
グローバルで人材を強化
そこで同社は、人的リソースの強化に力を入れる。特に技術・モノづくり人材を中心に、今後3年間でグローバルで計5000人の人材を増強する。
2022年度の実績をみると、技術・モノづくり人材の採用人数は250名だった。毎年300人程度の人材を獲得し育成している。このことから、“今後3年間で5000人増強"という目標が、同社の本気度を如実に表していることが分かる。
そして、グローバルで人材強化を進めるうえで、人員構成も中期的に大きく変えていく。北米を中心とした生産能力の増強により、2030年度には海外人員構成が80%になる見通し。またキャリア採用も積極的に進め、2030年度にはキャリア入社者構成が50%超となるようだ。
「パナソニックグループの中でも、これほどの規模とスピードで変化している事業はこれまでないはず」と、三木氏は胸を張った。
人材競争力を強化するために、同社はまず、優秀な人材の囲い込みとリテンションの徹底強化を今まで以上に図る。これまでは、人材紹介会社を通じて募集・企業の魅力づけ・入社直後の離職率低下を図ってきたが、これからはすべて独自の取り組みでまかなう。
「リクルートブランディングの強化はもちろん、アルムナイ(離職・退職した人の集まり)の構築で主体的に人材プールを形成していく」(三木氏)とのことだ。
電池未経験者も短期間で育成
その上で、自律した個人が働きやすい組織の風土づくりや、人事制度の変革も同時に進めていく。まず取り組むのが、ジョブ型人材マネジメントへの変革だ。
具体的には、ジョブディスクリプション(JD:職務記述書)をベースにしたベンチマークを行い、年齢や性別、国籍などに関係しない人材の獲得を狙う。また公募制登用の導入や、自律型学習などを通じて自律的なキャリア形成も後押しする。社歴ではなく、個人の能力にフォーカスを当て、対話重視の評価を推進していく。「当社の報酬制度は市場水準からするとまだまだ魅力が足りない。個人の能力や挑戦に報酬をしっかりと反映させていく」(三木氏)
そして、技術・技能を中心とした基盤教育を通じて、人材の専門能力を磨いていく。パナソニック エナジーは、2023年4月1日に高度技術者を講師とする「技術・モノづくりアカデミー」を開校した。CTO直轄下にあるアカデミーで、キャリア入社者を短期間で戦力化することを目指す。
まずは、入社2年目までをターゲットとし、「技術学部」、「生産技術学部」、「製造学部」の3学部で教育カリキュラムを整備し、幅広いプログラムを提供する。中長期的には、グローバルへ展開し、ターゲットの職種や年齢も順次拡大していく考えだ。
「電池事業の経験がない人も、教育を通じて短期間で戦力に変えていきたい。例えば、半年以内で材料開発から量産できるレベルまでの技術をしっかりと学んでもらう。すべての人材が活躍できるような教育基盤を整えていく」(三木氏)
多様な人材を生かすために
多様な価値観を持った人材を生かすために、働き方制度や環境の整備も抜かりない。働く場所・時間を柔軟化させるためにフルリモートワーク制度を導入し、時間単位の年休も可能とする。
さらに、「パートナー海外同行休職制度」を新設。同制度は、従業員のパートナーが海外赴任などの事情があった際、パートナーに同行する期間について休職を認める制度だ。三木氏は、「この制度により女性社員の活躍も見込める」と補足した。
「パナソニック エナジーにおいて人材は、最重要資本と位置付けている。一人ひとりの個性を最大限生かし、事業競争力へと転換させていく。事業会社としての競争力強化だけでなく、従業員のウェルビーイング向上への投資も加速していきたい」(三木氏)