Figma Japanは3月14日、日本進出1周年を記念したユーザー向けイベント「デザイン経営2023 “Great DX is not done without Great Design”」をハイブリッドで開催した。
イベントのオープニングでは、Figma Japan カントリーマネージャーの川延浩彰氏が登壇し、DX(デジタルトランスフォーメーション)におけるデザインの重要性を語った。
「良いデザインなくして、DXは実現できないと考える。なぜなら、企業がDXに取り組む中で提供する新たなサービスや製品は、ユーザーにとって使いやすくて良いデザインでなければ利用されないからだ。良いデザインの実現には、経営陣を含めた多くのステークホルダーとのコラボレーションが鍵になる。『チームが視覚的に共同作業できるようにする』をミッションとする当社が、DXにおいて担う役割は今後大きくなるだろう」と川延氏は意気込んだ。
同社は企業のDXを本格的に支援するべく、2023年の春に社内体制を拡充し、Figmaのユーザーサポート体制の構築を進めるという。
iPhoneの登場でデザインへの要求が高度化
同イベントでは、企業におけるデザインの浸透やAIがデザインに与える影響などをテーマに、Meta Japan メタバースデザインディレクターのイアン・スパルター氏と、米Figma プロダクトデザイン担当 ヴァイスプレジデントのノア・レヴィン氏による対談が行われた。
対談の冒頭で、スパルター氏は「ソフトウェアやWebの利用が拡大したことで、デザインが担う領域も広がり、デザインに対する考え方も大きく変わった」と述べた。
分岐点となったのは、iPhoneの登場だ。多機能でさまざまなテクノロジーを利用できるプロダクトだが、いつも身に付けていることを前提としているため、UX(ユーザーエクスペリエンス)などのデザインに求められる要件のレベルが上がったという。
企業のDXにおいてデザインが役割を果たすためには、「素晴らしいデザインができる環境を整える」ことも重要だ。そのためには、まず、優秀な人材を採用しチームを作り、そのためのスキルセットも構築する必要があるが、デザインを生み出すプロセスの整備もデザイナーに求められる。
「チームが大きくなるにつれて必要なプロセスも変わる。整合性のある働き方ができるような調整も求められるし、『月曜日には必ずこれをする』といったチーム内の儀式も必要かもしれない」とスパルター氏は説明した。
エンジニアを巻き込んだ共同型デザインでは「ストーリーテリング」が重要に
しかし、企業におけるデザインの位置づけは各社によって異なる。経営や事業を検討する際にデザインも含めて議論する企業もあれば、デザインを重要視していない企業もある。
レヴィン氏は、「会社の規模、デザインチームの規模、知識量、従業員のやる気など、さまざまな要素があると思う。デザインに対する捉え方が異なる組織で、自らの仕事のやり方を変えなければいけなかったことは?」とスパルター氏に問いかけた。
スパルター氏は以前働いていたスタートアップにおいて、経営陣のほかエンジニアやプロダクトマネージャーなどの非デザイナーをデザインのプロセスに巻き込む「共同型のデザイン」を実施していったという。
「先見の明がある経営者に、才能あるデザイナーもいた。だが、経営者はデザインチームの仕事に満足しておらず、デザインチームも仕事内容に不満を持っていた。そこで、CEOの構想を具体的なデザインに落とし込み、デザイナーがベストな仕事ができるようにプロセスやスケジュールを設定し、『デザインで達成できること』の期待値を変えていった」とスパルター氏は明かした。
共同型のデザインを実現するためには、部門横断的なパートナーシップが欠かせない。対談では、その際に求められるスキルにも話がおよんだ。スパルター氏によれば、デザイナーにとって最も重要なスキルが「ストーリーテリング」だという。この場合のストーリーテリングは、「なぜ、こんなデザインにしているのか?」という疑問に答えられるような、デザインの背景にあるストーリーを語る能力を指す。
「組織全体でデザインのプロセスを理解し、デザインに対する意識を合わせるためには、あるデザインに至るまでのストーリーを語る必要がある。その過程で起こるさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションによって、デザインに対する透明性と理解が生まれる」(スパルター氏)
顧客の課題に対して戦略を示すのがうまいデザイナーもいれば、プロトタイプがあることでデザインの意味を語れるデザイナーもいる。そのため、ストーリーテリングでは自分に最も合う手法を選び、時にはデザインとは関係ないスキルや人材が必要になるという。
レヴィン氏は、「かつて、デザインは具体的で、どの企業でも一貫した役割を果たすと考えられていたが、デザイナーがすべきことの定義が変わってきているのかもしれない」と総括した。
「デザイナーは不要にならない。AIが仕事を効率化する」
昨今注目を集めるChatGPTに関連して、対談ではデザイン業界におけるAIの影響についても触れた。
スパルター氏は、「私たちの働き方は変わるが、デザイナーが不要になるとは思わない。一部のタスクをシンプルにしたり、効率化したりとAIがデザインの仕事を補完するような未来を期待している」と語った。
AIの活用例としては繰り返し行う作業の自動化をはじめ、カスタマーインタビューの代替としてユーザーコメントをWebなどから収集するといった使い方も例に挙がった。
他方で、AIを活用したことによる不正の発生やプライバシー侵害が、AI活用の課題の1つに挙がっている。将来的にデザイナーはそうした課題に対応するために、特定分野の知識や経験を持った人材とチームを組み、共同作業をすることもあり得るという。