今回のシステムでは、まず人間の認知機能に影響を与えうる室内環境データ(温度・湿度・照度・光色・におい・音・CO2濃度・微粒子・気圧など)や、生体センサから得られる生理的データ(皮膚体温・心拍)に基づく情報状態(覚醒度・感情価)、および時間情報を総合的に収集し、これらを紐づけるところから始められる。なお、時間情報が加わることによって、生活リズムや室内環境の変化の割合を把握できるようになり、これが推定精度の向上につながるという。

次に、そうして収集されたデータをもとに、生体センサから得られる生理的データに基づく情動状態を正解ラベルとして与え、教師あり機械学習によって環境データと時間情報から得られる情動状態の推定精度を上げていく作業が行われた。これにより、今回開発されたシステムでは、接触型の生体センサを使うことなく、環境データと時間情報のみを用いて情動状態を高精度で推定できるようになったとしている。

実験では、2LDKの室内で3泊4日の生活をする6名(男性3名・女性3名)を対象に、今回のシステムを用いて、人間の認知機能に影響を与えうる室内環境と時間情報に関するデータのみから、個人の情動状態(ストレスや覚醒度、疲労度、快適度の状態)が推定された。その結果、約90%の精度で情動状態の推定に成功したという。研究チームはこの結果から、今回のシステムでは、非接触型センサのみを用いて、従来の生体センサによる手法にも劣らない精度を達成できたといえるとした。

  • センサの種類数に対する推定精度が表されたグラフ。〇は平均値。人間の認知機能に影響を及ぼしうる環境センサに加えて。時間情報を用いることによって平均で90%の精度で推定が可能とした

    センサの種類数に対する推定精度が表されたグラフ。〇は平均値。人間の認知機能に影響を及ぼしうる環境センサに加えて。時間情報を用いることによって平均で90%の精度で推定が可能とした(出所:千葉大プレスリリースPDF)

また、今回の研究成果は、人間の認知機能に影響を及ぼしうる環境データのみを用いて、情動状態を推定できることを示唆しているとする。非接触型環境センシングデータのみを用いて高精度で客観的に情動状態を推定できることから、客観的視点でメンタルヘルスをモニタリング可能な生活環境を提供できるようになることが期待されるという。それに加え、ストレスが少なく集中しやすい労働環境、学習環境、運転環境をサポートするシステムの開発が進展し、タイムパフォーマンスを意識した労働など、新たな働き方につながることも期待できるとしている。