神戸大学は3月9日、これまで世界的に利用されている「特発性自閉症」のモデルマウスと、その亜種とを比較解析することで、内在性のレトロウイルスの活性化が自閉スペクトラム症(自閉症)の感受性を上昇させることを明らかにしたと発表した。
またこの亜種のマウスは、記憶能力の低下を伴うことなく、自閉症の主症状によく似た行動異常を呈したことから、既存のモデルマウスよりも正確なモデルであることを見出したことも併せて発表された。
同成果は、神戸大大学院 医学研究科 生理学分野の内匠透教授(理化学研究所 生命機能科学研究センター 客員主管研究員兼任)、同・Chia-wen Lin研究員らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の分子精神医学を扱う学術誌「Molecular Psychiatry」に掲載された。
自閉症は未解明な部分も多い発達障害として知られ、近年、患者数が急増しているとされる。その理由としては、診断基準の変更も影響が大きいとみられているが、父親が高齢化していることなども要因として挙げられている。なお、自閉症では遺伝学的素因が強く関連すると考えられており、コピー数多型などのDNAの構造学的異常が病態に関与するとされている。
自閉症に関する研究において、病態を解明するためのモデル動物として、マウスが特に用いられることが多い。中でもよく用いられるのが、自然発症の自閉症マウスモデルの「BTBR/J」系統だ。同系統では、左右の脳を連絡する脳梁が欠損していること、免疫系のシグナルが亢進していることなど、さまざまな異常が報告されている。しかし、なぜ同系統が自閉症のような行動異常を示すのかは、本質的には理解されていなかったという。そこで研究チームは今回、同系統とその亜種の「BTBR/R」を詳細な比較解析することで、自閉症様行動異常の発症原因を明らかにすることにしたとする。
まず、MRIを用いて両系統の脳内各領域の構造の差異が調べられた。その結果、偏桃体を含む33領域の部位において両系統間の違いが見出された。特に顕著な差としては、BTBR/Jでは脳梁が欠損しているにもかかわらず、BTBR/Rは正常なままであることが確認されたという。
続いて、アレイCGH法を用いてBTBR/Rのコピー数多型をB6マウスと比較したという。すると、BTBR/Rでは内在性レトロウイルス(ERV)の割合がB6マウスに比べて顕著に増加していることが判明。また、qRT-PCR法にてこれらレトロウイルスの活性化を調べたところ、BTBR/Rではその活性化が認められた一方で、同じ反復配列に分類されるLINEにはB6マウスとの変化がなかったことから、BTBRにおけるレトロウイルスの活性化は特異的であることが明らかにされた。