PEPは、グルコースがエネルギーに変換される時に生成される代謝産物で、非常に重要なプロセスの一部として体内で常に生成されている。このPEPをT細胞に投与したところ、Th17細胞へ成熟するのを抑制することができ、その結果として炎症反応が収まることが確認された。

  • 自己免疫による神経炎症マウスにPEPが投与された結果、投与されなかったマウスより大きな回復の兆候が見られたとする。図提供:ホァン・ツォンイェン大学院生

    自己免疫による神経炎症マウスにPEPが投与された結果、投与されなかったマウスより大きな回復の兆候が見られたとする。図提供:ホァン・ツォンイェン大学院生(出所:OIST Webサイト)

しかしこの実験結果は、同じテーマに関する先行研究での報告内容とは真逆だったため、さらなる詳細な調査が続けられた。その結果、Th17細胞が成熟するために不可欠なタンパク質「JunB」に行き着いたとする。同タンパク質は、特定の遺伝子に結合してTh17細胞の成熟を促すものだ。そして、PEPで処理を行って同タンパク質の活性を阻害する実験を行った結果、Th17細胞の産生を阻害できることが発見された。

続いて、ここまでの知見をもとに、神経炎症という多発性硬化症によく似た自己免疫疾患を持つマウスに対するPEPの投与を行ったところ、回復の兆候が見られたという。

上述したように、自己免疫疾患の治療法開発に向けたこれまでの多くの研究では、解糖を阻害することでTh17細胞の増殖を抑えることに着目していた。しかし、解糖は体内のさまざまな細胞にとっても不可欠であり、それを阻害することで大きな副作用が生じてしまう危険性があった。それに対し、PEPはそのような副作用がない治療薬として利用できる可能性を秘めている。今回の結果により、PEPが自己免疫疾患の治療法開発につながる可能性が示され、今後はその効率を上げる必要があるとした。