東日本電信電話(以下、NTT東日本)および西日本電信電話(以下、NTT西日本)は3月2日、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた初の商用サービスとして、「APN(All-Photonics Network) IOWN1.0」を3月16日から提供を開始することを発表し、記者会見を開いた。また、APN IOWN1.0において遅延可視化と遅延調整が可能な端末装置「OTN Anywhere」の販売も同日より開始する。

APN IOWN1.0がとうとう商用サービスに、詳細が明らかに

APNとは、NTTグループが掲げるIOWN構想を支える要素技術の一つである。ネットワークから端末まであらゆる部分に光技術を導入し、従来の電子技術では実現困難な低消費電力化、高品質・大容量化、低遅延化を目指すものだ。

今回提供を開始するAPN IOWN1.0は、通信ネットワークの全区間で100ギガビット/秒の光波長を専有できるサービス。光波長専有により他のトラフィックの影響がなく、ゆらぎが発生しない特徴を持つ。同社によると、従来の通信と比較して約200分の1程度の低遅延を実現しているそうだ。インタフェースにはOTU4を採用した。

NTT東日本およびNTT西日本から全国に提供を開始するが、現在のところ、起点と終点が同一の都道府県内にあるエリアでの提供となる。

  • APN IOWN1.0の特徴

    APN IOWN1.0の特徴

両社はAPN IOWN1.0の提供開始に伴って、端末装置であるOTN Anywhereの提供も開始する。この端末は10ギガビット・イーサネット、100ギガビット・イーサネットの光信号を受信しOTU4に変換し出力する。拠点の遅延を可視化する機能を備え、1マイクロ秒単位で遅延を調整可能だ。なお、同端末は遅延の可視化と調整が主な機能であるため必須ではなく、ネットワーク単体での利用も可能だという。

APN IOWN1.0は月額198万円(税込み)、OTN Anywhereは1台当たり645.7万円から。これらのサービスは基本的にオーダーメイドでの提供となるため、個別の見積もりが必要だ。

  • APN IOWN1.0のサービス概要

    APN IOWN1.0のサービス概要

  • APN IOWN1.0のシステム構成

    APN IOWN1.0のシステム構成

これらのサービスは、特にeスポーツ大会などでの利用が想定されている。遠距離で格闘ゲームやシューティングゲームなどのeスポーツをプレイする際には、通信のわずかな遅延も勝敗に影響し得る。そこで、APN IOWN1.0およびOTN Anywhereを利用することで、距離による遅延を抑えながら同程度に調整でき、公平な対戦が実現できる。

  • eスポーツでの利用イメージ

    eスポーツでの利用イメージ

その他、離れた場所にある会場をつないだ演奏会や漫才など、空間を超えて演者と観客が一体感を得られる新たなエンターテインメント体験の提供も目指すという。また、4Kや8Kの映像信号を圧縮・複合することなく伝送できるようになるため、スポーツ中継や音楽イベントなどの利用も想定される。

同社が実施したイベント「距離を超えて響き合う 未来の音楽会Ⅱ」では、東京、大阪、神奈川の間をAPN関連技術でつなぎ、離れた距離にいる演奏者が同時に演奏する実証を実施した。この際、東京大阪間で見られた遅延は約8ミリ秒だったという。これは同じステージ上で3メートル離れた人に音が届くまでの時間に相当するというから驚きだ。あたかも同じステージにいるかのように演奏できたそうだ。

  • 演奏中の様子

    演奏中の様子

NTTが掲げるIOWN構想とは?

近年はIoT(Internet of Things:モノのインターネット)やICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の進歩により、私たちの生活はより便利になっている。その一方で、世界で生み出されるデータ量の増加に伴って、消費電力も増加の一途をたどる。

データセンターの消費電力に着目すると、2018年と比較して2030年までに日本では約6倍、世界全体では約13倍も増加するとの試算もある。そうした中で、イノベーションを促進しながら、急増する消費電力への対応も両立させるためにNTTが打ち出したのがIOWN構想だ。

この構想の中では、2030年度までに電力効率100倍、伝送容量125倍、エンドエンド遅延200分の1を達成する目標を掲げている。APN IOWN1.0は、このうちエンドエンドで200分の1の遅延を実現している。

APN IOWN1.0は、ネットワークがレイヤ1の高速な通信パスであり、ルータやスイッチによる処理遅延が無い。また、大容量であるためにエンコードや圧縮など映像の処理が不要となる。また、遅延が確定している特徴があるため、アプリケーション側での待ち合わせやバッファが不要だ。これらの理由から低遅延を実現している。

  • IOWN構想の目標値

    IOWN構想の目標値

記者会見に登場した日本電信電話(以下、NTT)の代表取締役副社長を務める川添雄彦氏は「日本は世界の中でも特に光通信の普及率が高い国。この光を使ってより一層新しい限界打破のイノベーションを実現するために、IOWN構想の開発を進めている。光技術をネットワークだけでなく端末やサーバの中にも取り入れ、消費電力を抑えていく」と紹介した。

  • NTT 代表取締役副社長 副社長執行役員 川添雄彦氏

    NTT 代表取締役副社長 副社長執行役員 川添雄彦氏

APN IOWN1.0の利点でもある低遅延での通信は、特に車やドローンの自動運転・制御での活用が期待される。また、メタバースやVR(Virtual Reality:仮想現実)の普及に伴って、いわゆる「VR酔い」を防ぐために低遅延の通信が求められる。人の動きを追従可能な映像が必要だからだ。

  • 低遅延の通信が求められる領域

    低遅延の通信が求められる領域

川添氏はIOWN構想がもたらす価値について、データセンターを例に以下のように説明した。

「現在のデータセンターは都市部に集中しているが、IOWN構想の低遅延かつ大容量のネットワークにより地理的な障壁を克服できれば、データセンターを分散できる。『今日は北海道が晴れているから北海道のグリーンエネルギーを使ったクラウドサービスを使って、明日は九州の天気が良いから九州のクラウドサービスを使おう』といったように、ダイナミックに切り替えてデータセンターを使えるようになるはず。コンピューティングとエネルギーを上手に組み合わせて使う時代になるのでは」

  • データセンターにおける利用価値の例

    データセンターにおける利用価値の例

なお、IOWN構想はNTTグループが単独で開発を進めるのではなく、パートナー企業らと共創しながら開発を進める方針だ。

  • パートナー企業の例

    パートナー企業の例