Arasの日本法人であるアラスジャパンは2月24日、事業説明会を開催し、DX化が進む現代におけるPLMの役割の変化などを踏まえた自社の方針などの説明を行った。

同社はSaaSベースのサブスクリプションサービスという形態でPLMソフトウェアパッケージを提供してきた。主に、組立製造業を中心に、広くものづくり産業に活用が進んでおり、同社のサブスクの契約企業数は550社超、全世界で400万人のアクティブユーザーを抱え、そのパートナーも150社を超す状況にあるという。また、コロナ禍で世界的に加速されたデジタル化を背景に、過去5年間の売り上げ平均成長率は36%と高く、日本だけで見ても2022年は50%近くの伸びを示す勢いだったという。

  • Arasの現状

    Arasの現状 (資料提供:アラスジャパン、以下すべて同様)

ものづくり産業における3大基幹システム

ものづくり企業の基幹システムとしては、大きく分けて、経営状況の見える化のためのERP(Enterprise Resources Planning)、自社製品の生産から出荷、在庫管理などを行うSCM(Supply Chain Management)、そして販売するためのモノを作るためさまざまな機能を結び付けるPLM(Product Lifecycle Management)の3つが知られている。

  • 従来の3大基幹システムの概念

    従来の3大基幹システムの概念

その中で従来のものづくり産業であれば、PLMの役割は、製品の市場投入までの期間短縮(短TAT化)による投資期間の削減と、製品販売後の早いタイミングでの損益分岐点の到達、その後の利益の最大化といったところにあった。

  • 従来のものづくり産業に対するPLMがもたらすメリット

    従来のものづくり産業に対するPLMがもたらすメリット

しかし、これは「いままで定義されてきたPLMの考え方で、DX時代においてはデジタライゼーションの考え方にしかすぎない」と同社の久次昌彦 社長は説明。現在のデジタルトランスフォーメーション(DX)時代におけるPLMのトレンドとしては、デジタルスレッド&デジタルツイン(メタバース)、ローコード&DevOps、クラウド&エッジの3点が挙げられているとする。

いわゆるデジタルツインは現実世界で起こっている事象をデジタル化して、それを仮想空間内でも再現しようというもの。PLM的に言えば、データとデータの関連性を管理しようという動きだという。

また、同社としての注力分野の1つにローコード機能の強化があるとするほか、それと同時に顧客への展開に時間がかかってはいけないため、DevOps環境の拡充も図っているとする。

そして新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機に一気に進んだ企業のクラウド活用の波。PLMも同様で、それまでクラウドで活用することを多くの企業が避けていたものが、事業継続の必要性もあり、クラウドでの活用にシフト。「顧客自身の志向がクラウドになっており、競合他社含めて、そうした対応をPLMベンダ各社が進めている」(同)という状況になっているとする。

DX時代で幅広いものづくり産業がPLMを活用

複雑化するものづくり産業のエコシステムにおいて、近年のPLMを取り巻くトレンドしては、「顧客側もPLMが1つでなければいけないという考え方から、複数のPLMを選ぶという風潮がでてきた」(同)とする。そのため、他社のPLMとArasのPLMを共存させて適材適所で使おうという流れになっており、「用途に応じて使い分けるようになってきた」ともする。

こうした背景にあるのが企業のDX化である。いわゆるビジネスモデルの転換で、これまでの製造業が、製品を作って販売したらアフターサポートの期間が終われば、販売終了といった流れであったのに対し、ソフトウェアのアップデートによる製品ライフサイクルの長期化と高付加価値化が図られるようになり、それをうまく提供できたところが大きな利益を得るようになってきた。逆に言えば、機能改善/改良、サービスの付加価値向上のための開発コストが従来以上にかかってくることとなる。「極端な話、製品単体ではそうした投資が必要なこともあり、収益を生まないものも出てくるのがDXの時代。ただ、これを怠ると、普通の製品と変わらないが、企業としては赤字の製品を作り続けるわけにはいかないため、そこに新たな価値を生み出す必要がでてくる。そのため、ネットワークに接続させ、データを集め、それを分析して新たなサービスにつなげていく。これがこれからのPLMに必要とされる考え方となるし、そうしたサービスを生み出すことができれば、売り切りのモデルでは必ず衰退期がくるが、そうした衰退期がこないで、ずっと収益を上げることが可能になることも期待できるようになる」と、DX時代においてPLMの役割も変化することを同氏は強調する。

  • 単にモノを作って売っての時代から、付加価値拡大に向けた開発コストはかかるものの、それを上回るサービス化を提供することで、継続した利益を長期にわたって得ることができるようになるのがDX時代となる

    単にモノを作って売っての時代から、付加価値拡大に向けた開発コストはかかるものの、それを上回るサービス化を提供することで、継続した利益を長期にわたって得ることができるようになるのがDX時代となる

また、組立製造業でのPLM活用の成功を見て、その周辺のものづくり産業もそうした手法を取り入れたい、といった動きもでてきたという。例えば半導体製造の分野においてもBOM(Bill Of Materials)的な管理手法を取り入れたり、建築やEPC(Engineering, Procurement and Construction)・プラント、輸送、日用品、設備などといったものづくり産業も導入に向けた動きが活発化しているという。

さらに、サステナビリティの観点からもPLMに対する問い合わせが増加しているとする。特にCO2の排出規制が強化されてきている近年、製品情報とCO2排出量を関連付けて管理したいという話も出てきたとのことで、こうした新たな動きについては2023年後半には具体的な事例がでてくることが期待されるとしている。

  • 組立製造業から周辺産業へと拡大

    組立製造業から周辺産業へと拡大、そしてサステナビリティといった新たな価値の提供などもPLMに求められる時代となってきたとする

こうした新たな要望は既存のPLMでは対応できない。そのため、そうした従来のPLMになかった機能への対応を図る「Cross-Domain Collaboration」が重要になってきたとするほか、よりこれまでPLMと関わりのなかった産業分野の企業がすぐに活用できるようになることを目指した「Next Generation Low Code」の考え方も重要となっているとする。特に、自動車分野では自動車基準調和世界フォーラム(WP29)にてサイバーセキュリティに関する国際基準が成立。日本の場合、国土交通省(国交省)と連携してシステムを構築していく必要があるが、その対応速度を向上させるためには内製化を図る必要があり、そのためには、そのしきいを下げるローコード開発が重要になってくるとする。また、こうしたローコード化の推進は、単にPLM内部だけでなく、周辺のERPなどとの連携にも寄与するともしており、「マイクロサービス化が1つのテーマになっている。共通プロトコルでローコードでできる世界をArasでは目指している」とする。

そしてDX化の本命とも言えるデジタルツインの活用を推進する「Lifecycle Connectivity」という考え方も重要だとする。特に、近年の流れとしてはPLMを社外のステークホルダーにまでつなげる必要がでてきており、そうした問題の解決が求められているとする。

なお、アラスジャパンでは、DX化に伴うビジネスモデルの変化に応じた機能を顧客と一緒に作っていきたいという姿勢を示しており、そうした機能をともに実現していくべく活動を行っていくとしており、2023年6月15日から16日にかけて、東京のANAインターコンチネンタルホテル東京にて、「Reimagine Your Possibilities(可能性を想像し直す)」をテーマにした年次イベント「ACE 2023 Japan」を開催する予定としている。同社では1000名の来場を目標に、パートナーや来場者との情報共有を図っていきたいとしている。

  • 「ACE 2023 Japan」のテーマ説明

    「ACE 2023 Japan」のテーマ説明