名古屋大学(名大)は2月20日、強誘電体の代表的存在である「チタン酸バリウム」(BaTiO3)において、水溶液プロセスによって、60℃という低温で、原子3個分の厚み(1.8nm)かつ強誘電特性を維持できるナノシートの合成に成功したことを発表した。

同成果は、名大 未来材料・システム研究所の長田実教授らの研究チームによるもの。詳細は、材料科学や電子および磁性材料の工学などを扱う学術誌「Advanced Electronic Materials」に掲載された。

強誘電体において、厚さわずか数nmのナノシートを合成できれば、単位格子数個という臨界サイズでの新規物性の開拓や応用といった新展開が期待できるという。しかし、強誘電体のナノシートレベルでの合成は困難であり、厚さ数nmに至ると「サイズ効果」により強誘電特性が失われてしまうという大きな壁があった。そのため、BaTiO3などにおいては、層状化合物を剥離するという従来手法ではナノシートの合成は困難であり、新しい手法の開発が求められていた。

そこで研究チームは今回、BaTiO3ナノシートの合成を実現する手法として、厚さ1nmの酸化チタンナノシートを利用し、表面反応によりBaTiO3への構造変化を誘起する「テンプレート合成法」を検討することにしたという。

一般に、BaTiO3の合成には1000℃以上での焼成が必要とされる。しかし今回の研究では、酸化チタンナノシートの高い反応性に着目し、水・エタノールの混合溶液中で水酸化バリウムと反応させることで、60℃の低温でBaTiO3ナノシートを合成する手法が実現された。

  • BaTiO<sub>3</sub>ナノシートの低温合成のイメージ

    BaTiO3ナノシートの低温合成のイメージ(出所:名大プレスリリースPDF)

研究チームによると、透過型電子顕微鏡像、ラマン分光測定による構造解析の結果、欠陥のないBaTiO3の形成が確認されたという。さらに同手法は、膜厚の制御も可能とする。反応時間を5、10、25時間と変化させることで、2格子から6格子のナノシートの合成が実現された。

  • BaTiO<sub>3</sub>Oナノシートの圧電応答と透過型電子顕微鏡像(HAADF-STEM)

    BaTiO3Oナノシートの圧電応答と透過型電子顕微鏡像(HAADF-STEM)(出所:名大プレスリリースPDF)

合成されたBaTiO3ナノシートに対して、圧電応答力顕微鏡により、ナノシート1枚での強誘電特性の評価が行われた。すると、強誘電特性は単位格子3個に相当する厚さ1.8nmまで維持されていたという。また一方で、単位格子2個に相当する厚さ1.4nmでは、同特性が消失することが確認されたとした。

今回確認された単位格子3個に相当する厚さの強誘電体は、自立膜としては最も薄い膜厚だ。研究チームは、超薄膜における特異機能の解明やデバイスの小型化に重要な指針を与えることが期待されるとした。