科学技術振興機構(JST)は2月8日、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の1つとして2018年度から2022年度まで5年間実施された「統合型材料開発システムによるマテリアル改革」の最終成果報告を東京都千代田区内幸町で開催した。その管理法人を務めたJSTは、その最終成果報告書も公開した(図1)。

  • 統合型材料開発システムによるマテリアル改革」の最終成果報告書の表紙

    図1 「統合型材料開発システムによるマテリアル改革」の最終成果報告書の表紙

この「統合型材料開発システムによるマテリアル改革」では、性能や内部組織を調べる実験を計算に(できるだけ)置き換えるマテリアル・インテグレーション(MI)を実現するという挑戦的な“マテリアル革命”の実現のために、開発する材料に求める性能から材料・プロセスを設計するという“逆問題解析”を実現するテーマを追究してきた。その中で、金属系構造材料向け統合型材料開発システム「MInt」(図2)を開発したと、物質・材料研究機構(NIMS)の総合型材料開発・情報基盤部門が報告した。

  • 金属系構造材料向け統合型材料開発システム「MInt」の概念図

    図2 金属系構造材料向け統合型材料開発システム「MInt」の概念図(NIMSの資料から引用)

同部門は、材料工学での4要素となる「プロセス、構造、特性、性能」を計算機内でつなぎ、AI(人工知能)を含む情報科学手法を活用する材料開発を進める“マテリアルズインテグレーション”という新手法を提唱し、その実用化に成功しつつあると解説した(注)。

注:NIMS総合型材料開発・情報基盤部門が開発しつつある金属系構造材料向け統合型材料開発システム「MInt」と並行して、樹脂系FRP(繊維強化プラスチック)向けの統合型材料開発システムの「CoSMIC」は、東北大学、東レ、NIMSなどの産学連携体制で並行して開発されている。多数の大学、企業が参加している。このように、開発対象となる材料向けに、各統合型材料開発システムが研究開発されている

同部門を率いている出村昌彦部門長は「金属材料では、ミクロ組織と呼ばれる金属材料内部の“構造”がその特性や性能を支配するため、この“構造”を結束点として『プロセス、構造、特性、性能』をつなぐデータ記述形式を設計し、これに基づくデータベースを構築した(まだ途上)」と解説する。現在は、「金属構造材料を対象としたデータの記述方式を設計し、これに基づくデータベースを構築中」という。

金属構造材料のデータ記述方式の設計とその利活用の研究開発では「クリープ、疲労、腐食などのデータを格納できるデータ構造を設計し、これを材料オントロジー(柔軟な情報のネットワーク構造を記述することができる記述の手法)と接続して、他のデータ表現との連携を可能にした」と解説する。このためには、例えば透過型電子顕微鏡(SEM)による3次元ミクロ組織観察の解析手法やその逆問題への適用などを研究開発しつつある。

この多彩な研究開発では、現時点ではNIMS、東洋大学、神戸製鋼所、理化学研究所、関西大学、東北大学、JFEスチール、IHI、UACJなどが参加している。また東京大学なども参加している。材料企業では、事業化では競争領域になるが、「構造材料のデータ記述を考える基盤領域なので、日本での材料の研究開発の投資効率化を期待して共同開発を進めている模様」という。

この“マテリアルズインテグレーション”という新手法の中核システムは「MInt」と名付けられたシステムになる。NIMS総合型材料開発・情報基盤部門で、このMintシステムを開発している源聡MI統合システムチームのチームリーダー(図3)は「PSPP(プロセス-構造-特性-性質)連関を軸に、構造材料の性能評価を記述する理論と実験、計算機シミュレーションをつなぐシステムとして『順問題ワークフローの設計・実行システム』のMintを開発してきた」という。また、「その逆解析に必要となる複雑な計算シナリオを実現するアプリケーション・プログラミング・インタフェース群のAPIも開発しつつある」という。

  • 講演する源聡MI統合システムチームのチームリーダー

    図3 講演する源聡MI統合システムチームのチームリーダー

そして、基盤システムとして健全性を確保するインフラ技術として「セキュリティー対策や定期的な脆弱性診断とその補修、異常値検出などの運用技術・体制を図り、Mintの高い安全性を実現できた」と解説する。Mintシステムの外部の計算機資源を活用するためには不可欠なシステムだからだ。

この結果、「Mintシステムは、金属系構造材料の包括的な問題を解く順問題設計基盤として、さらに逆解析基盤も統合した基盤システムとして安定的に稼働している」という。

NIMS総合型材料開発・情報基盤部門は、このMintシステムを基にした金属構造材料のデジタル化を推進する産学官連携コンソーシアムとして、「マテリアルインテグレーションコンソーシアム」という会員制連携体制を設けている。企業会員は1年当たり利用料が250万円(消費税別)になっている。今後はこの会員数を増やす仕組みとして、NIMS独自のマテリアルズオープンプラットフォーム(MOP)に拡大する計画を進めている。