副業の自由さやワークライフバランスが重視される現代、「創業の心」や「家族のような経営」というと、少し古く聞こえるかもしれない。しかし、1936年の創業から現代に至るまで、グローバル規模の経営にまで発展しながらも創業の心を受け継ごうという会社がある。市村清氏が理研感光紙として立ち上げた、オフィスプリンティング事業などに強みを持つ現在のリコーだ。

リコーは2018年から、創立記念日である2月6日に全社を挙げたイベントとして「Foundation Day」を開催している。今年のテーマは、同社が100周年を迎える2036年に向けた長期ビジョンとしても掲げる「“はたらく”に歓びを」である。なお、2023年4月1日からは企業理念を改訂し、「“はたらく”に歓びを」を新たにリコーの「使命と目指す姿」とすると発表している。

今回のイベントは新型コロナウイルス感染症の影響を低減するために、オンラインでの開催となった。イベントを視聴する社員からは、同社が手掛けるオンラインイベントでの双方向コミュニケーションを促すサービス「RICOH Realtime Communication」を用いて、投票やコメントなどがリアルタイムに寄せられた。

  • 「Foundation Day」配信の様子

    「Foundation Day」配信の様子

リコー社内の「しくじり先生」が語る失敗談

イベントでは、グループ企業のエグゼクティブ層から3人を招き、若き日の失敗を社員が学ぶという企画が行われた。最初に登場したのは、PFUの代表取締役社長である村上清治氏だ。村上氏はグループリーダーとして組織づくりに失敗した経験を持つという。

2002年にリコーの販売事業部において事業戦略グループのリーダーとなった村上氏は、10人ほどの組織を管理することとなった。当時の自身の様子について「死ぬ気で働けば結果は付いてくるし、これまでもそうやって結果を出してきたという自負があった。徹夜してでも翌日の会議に臨んでいた。そうした中で、組織に付いて来られない部下は仕方がない、別の人員を補充すればよいと思っていた」と振り返った。

  • PFU 代表取締役社長 村上清治氏

    PFU 代表取締役社長 村上清治氏

「この時はまだ自身の間違いに気付かなかった」とも語った同氏は、2003年から販売事業本部e-CRMセンターの副所長に就任した。こちらは、60人程度が所属する組織だったそうだ。この時に「方針管理」や「外部組織との連携」など、マネジメントの基礎を当時のセンター長から教わったとのことだ。自身の席をセンター長の横に設置し、毎週30分ほどの1on1ミーティングを実施した。センター長が外部と打ち合わをする際には同席したそうだ。こうした日々を過ごす中で、自身の「しくじり」に気付いたという。

村上氏は自身のしくじりから得られた教訓として、「若いころに成果を出せていたのは、上司や仲間がサポートしてくれたから。私は独り善がりになってしまっていた。浜田社長(当時)の著書にもある通り、上司は部下のお役立ち係でいることが私のマネジメント方針となった」と述べた。さらに「今、上司として活躍している人や、これから上司になるという人は一人で突き進むのではなく、周囲がサポートしながら一緒に進んでくれるような、親身になって部下を育成できる上司になってほしい」と社内にエールを送った。

  • 村上清治氏のメッセージ

    村上清治氏のメッセージ

続いて登場したのは、リコーITソリューションズの代表取締役 社長執行役員を務める橋本泰成氏。画像システム事業に長年従事してきた同氏が、自身の知識や経験を生かせない事業領域へと異動した体験から得た学びを発表した。

  • リコーITソリューションズ 代表取締役 社長執行役員 橋本泰成氏

    リコーITソリューションズ 代表取締役 社長執行役員 橋本泰成氏

入社以来画像システムの開発に取り組んできた橋本氏に対し、当時の上司から「クラウドサービスを開発してほしい。しかもアジャイル型で」と声を掛けられたという。これを機に、同氏は自身が持つ経験を全く生かせない環境に異動した。

そうした環境の中で、橋本氏は単なる外部への業務委託ではなく、戦略そのものを説明することに注力したという。対等な立場でさまざまな組織の得意分野を組み合わせることで、数年先を見据えて共に成長できるパートナーを獲得できたとのこと。開発業務はチームに任せ、橋本氏自身は関係づくりに専念した。

慣れない環境で多くの失敗を経験した橋本氏は「できないことを自覚して、各メンバーの得意・強みを生かすチーム作りに専念したら道が開けた。反対に、自分にしかできないことも見えてきた」と振り返った。また、「メンバーを管理するよりも個々のリーダーシップを醸成して勝手に育つチーム作りが重要」とも語っていた。リーダー自身がやりたいことよりも、部下や相手の課題に寄り添うことで、好循環が生まれるのだという。

  • 橋本泰成氏のメッセージ

    橋本泰成氏のメッセージ

最後に登場したのは、リコーのデジタル人材戦略センター所長である木原民氏だ。木原氏が「会社を辞めたい」と思ったという経験を明らかにして、そこからどのように立ち直って、現在に至っているのかを語った。

  • リコー デジタル人材戦略センター 所長 木原民氏

    リコー デジタル人材戦略センター 所長 木原民氏

当時リコーITソリューションズでデジタルサービスの開発に従事していた木原氏は、自身のやりたいことが上手に表現できず、さらに周囲からの理解も得られなかったため、将来のキャリアについて悩んでいたという。

そのことを当時のメンターであった國井秀子氏に相談すると、「こんな時こそチャンスと思って、勉強してみなさい」とアドバイスされたそうだ。これを受けて、木原氏はMOT(Management of Technology:技術経営)を学べる大学院へと進学した。大学院での学びについては「自分の市場価値を自ら高めることができた」と述べていた。ここでの学びを生かして、木原氏はリコーで技術経営本部の設立に尽力した。

木原氏はマハトマ・ガンディー氏の言葉を引用して「Live as if you were to die tomorrow. Learn as if you were to live forever.(明日死ぬかのように生き、永遠に生きるかのように学べ)」と社内にメッセージを送った。また、「人生100年時代と言われる現代、自らの価値を自ら高めるためにも学び続けることが大事」とも述べていた。

リコーのWinning Spiritを体現する選手・棋士らも登場

さらに、男子ラグビー選手のブロディ・マクカラン氏(リコー ブラックラムズ東京)、女子バレーボール選手の鍋谷友理枝氏(PFU ブルーキャッツ)、女流棋士の里見香奈女流王座、女子プロゴルファーの河本結氏ら4人が登場し、日々勝負の世界で戦う選手らがプレッシャーに打ち勝つための方法などを披露する場面もあった。

プレッシャーに打ち勝つための方法について司会者が質問すると、里見女流王座は「私は自分にどんどんプレッシャーをかけたいタイプ。将来的に人間として成長できたら嬉しいので、若いうちはたくさん経験を積みたい」と発言。会場からは驚きの声が上がった。鍋谷選手は「普段の練習から試合を想定してプレーすること。試合の中でも練習でやった場面を思い出せれば、いいプレーができる」と語った。

  • プレッシャーに打ち勝つ方法を紹介する4人

    プレッシャーに打ち勝つ方法を紹介する4人

続いて、プレー中に弱気になった際やスランプの克服法についての質問が飛び出した。これに対し、河本プロは「絶賛スランプ抜け出し中」と回答した。日々のトレーニングに加えて、自己啓発本やビジネス書などを読み、ゴルフの糧にしているそうだ。

ブロディ選手は「Remember why I play Rugby」と答えた。「元々ラグビーが楽しいと感じたから競技を始めたのだが、それから20年が経った今でもラグビーを楽しむ気持ちは忘れていない。プレッシャーがかかっている場面でも、たとえスランプの中だとしても、ラグビーを楽しむ気持ちを思い出している」とのことだ。

  • スランプの抜け出し方について語る4人

    スランプの抜け出し方について語る4人

ブロディ選手が「どんなに小さなゲームや勝負でも負けるのが嫌い」と語ると、鍋谷選手、里見女流王座も同意し、4人の“勝負師”としての負けず嫌いな一面も垣間見えた。ちなみに、河本プロは「自分のプレーができなかった時」に最も悔しさを感じるのだという。

イベントのテーマである「“はたらく”に歓びを」にちなみ、今までで一番嬉しかったことを聞くと、河本プロは「優勝したとき!」と笑顔で語った。鍋谷選手は「(リオデジャネイロ)オリンピックへの出場権を獲得したとき」とのことだ。