リコーは1月30日に取締役会を開催し、取締役 コーポレート専務執行役員 リコーデジタルサービスビジネスユニット プレジデントの大山晃氏が代表取締役 社長執行役員・CEOに4月1日付で就任することについて、全会一致で決議されたことを明らかにし記者会見を開いた。
なお、現社長を務める山下良則氏は代表取締役会長に就任する予定だ。同社は今回の人事について、経営体制の強化・充実を図り、グループの持続的な発展とさらなる企業価値の向上を目指すものだとしている。
「大胆かつ細心の経営を」新社長 大山晃氏
大山氏は山形県出身で、1984年に早稲田大学政治経済学部を卒業し1986年7月にリコーに入社した。2014年に常務執行役員に就任し、その後も専務執行役員、CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)、CEO室室長、CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)などを歴任。2022年4月からはリコージャパンの取締役会長を務めている。
また、同氏の経歴はRICOH EUROPE社長兼COO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)や、RICOH AMERICAS HOLDINGS社長など、海外での豊富な経験も特徴的だ。
会見に登場した大山氏は「指名委員会で話を聞いたときは正直驚いたが、今は使命感と緊張感でいっぱい」と語り、笑顔を見せた。続けて、「私の経営のよりどころは、創業の精神である三愛精神(人を愛し 国を愛し 勤めを愛す)だ」と自身の信条を紹介した。なお、モットーとしているキーワードは「大胆かつ細心」だという。
山下氏が社長に就任してから6年が経つ。リコーは山下氏の強いリーダーシップのもとで、経営基盤を強化しながらデジタルサービス企業への変革を進めてきた。大山氏はこのタスキを受け継ぎ、デジタルサービス企業への変革を実現して、さらなる成長を目指す。
近年の企業経営を取り巻く環境は、感染症の流行や地政学リスク、世界的なインフレーション、サプライチェーンの混乱などの影響を受け、その厳しさを増している。コロナ禍を経てグローバル規模で働き方が大きく変化している中、これまでオフィスで「はたらく人」を支え続けてきたリコーならではのデジタルサービスに期待が高まる。
大山氏は同社が発揮できる強みについて、「リアルワールドでのお客様の支援と、サイバー上でのソリューション提供をシームレスにつなげること」と述べた。同社はアナログとデジタルをつなぐ独自のエッジデバイスを有しているが、これらを活用してオフィスだけにとどまらず、人が働く環境を今後も強力に支援する方針だ。
また、これまで培ったグローバルでの顧客接点を活用しながら、グローバルで共通するサービスと、各地域に根差したサービスの両輪で顧客を支援するとしている。こうした同社の強みを価値に変え、さらに収益につなげるために、リコーはビジネスモデルの変革を加速させる。
具体的なビジネスモデルとしては、ハードウェアおよびソフトウェアの提供をサービス化し、データ分析などのさまざまなソリューションを組み合わせて、継続した提供価値の向上による収益化を目指すとのことだ。
大山氏は社内の組織構造の変革にも着手する予定だ。メーカー機能が付加価値機能の大半を担う従来の組織体制ではなく、各地域の顧客接点からより多くの付加価値を生み出す体制を構築する。グローバルでノウハウや人的資本を共有しながら、シナジーを生み出していくようだ。
このように、地域戦略を進化させる一方で、グローバルで統合されたマネジメント体制を構築し、連結での収益力向上を図るとしている。ここで、大山氏が持つグローバルでの経験が発揮されるのだろう。
「お客様が安心して働き方の改革を任せられるよう、そして、社員が自己実現を叶えられるよう、企業価値が向上し続けるリコーを目指す」(大山氏)
なお、今後のより詳細な方針は改めて中期経営計画などで示される予定だ。
大山氏から見た山下氏の経営者としての姿について聞いてみたところ、「山下社長はメッセージの出し方が卓越している。社内に繰り返しメッセージを出して、さらにその言葉が届いているのかを現場まで確認しに行っている姿を見てきた。会社を一丸にまとめる能力に長けている経営者だと思う。見習いたいが真似するのは難しい経営スタイルの持ち主で、非常に尊敬している」との答えが返ってきた。
「やり残したことはない」現社長 山下良則氏
今回の人事は、リコーが継続的に指名委員会で実施しているCEO後継者計画の議論を経て、取締役会での決議に至ったものだそうだ。同社の取締役会は山下氏の他は社外取締役で構成される。
代表取締役会長に就任する予定の山下良則氏は、大山氏について、「グローバルでの経験と実績、リーダーとしての資質、結果を出す実務能力、本社だけでなく各地域の責任者から信頼される人格などを有しており、次期中期経営計画を担う社長に最適な人材」と紹介していた。
特に、大山氏のリーダーシップと、経験によって裏付けされた実務能力、オフィスサービスの責任者として事業収益力の強化に尽力した実績が評価されたようだ。
山下氏と大山氏が一緒に働いた経験を振り返ると、1996年まで遡るという。山下氏は生産現場で、大山氏は営業として販売の現場で、それぞれキャリアを積んだ。当時の大山氏の様子について「最初は懐が深いムーミンパパのような人だなという印象を持っていたが、実際は利他の心を持つ仕事人だった」と山下氏は語った。
近年ではCFOやCMOとして山下氏と共に経営に携わってきた大山氏だが、その仕事ぶりについて、山下氏は「至って冷静かつ丁寧なコミュニケーション姿勢で、国内のみならず海外の現地マネージャーからの信頼が厚く、人間味があふれる部分もある」と評している。
さて、山下氏がリコーの社長に就任して6年が経過した。同氏は就任直後に「RICOH 再起動」をテーマに掲げ、プリンティング事業の再構築や構造改革、グループ事業の再編など、経営の基礎固めに約1年を費やした。
翌年度からのテーマには「RICOH 挑戦」を掲げた。このころから新たな収益基盤としてデジタルサービスへの注力を進め、さまざまな投資を行ってきた。現在のテーマは「RICOH 飛躍」。これまでに固めた経営基盤の上で成長を加速しつつ、カンパニー制の導入やデジタル人材の育成などの変革を起こした。
山下氏に、これまでの6年を振り返ってコメントを求めた。
「経営とは駅伝のようなものだと思っているので、私がタスキを受け取った時より少しでもタスキを輝かせて次の人に渡したい。ゴールとして目指すのは、リコーがサステナブルであり続けること。今は私がタスキを受け取った時よりも少しは輝いているのかなと思えるので、何かをやり残したという感覚は無い」と、山下氏は晴れやかな顔で語った。
また、「これまで、グループ社員が迷わないよう、メリハリを付けて経営してきたつもりだ。メディアなど外からの情報ではなく、社内からの情報に基づいて社員が自立して意思決定できるよう心掛け、成長を促してきた。従来の会社と社員の関係性ではなく、新しい両者の関係性を築けるよう注力した結果、だいぶ社員の意識も変わってきたのでは」とも語っていた。