NECは2月1日、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成を支援する「NECアカデミー for DX」において、「DX推進人材」の育成プログラムを提供開始すると発表した。

同日には新プログラムの詳細や、DX人材育成の最新動向に関するオンライン記者説明会が開かれた。

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「デジタルスキル標準」に対応した人材育成メニュー

DX推進人材育成プログラムでは、経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が2022年12月に公開した「デジタルスキル標準(DSS)」で定義されている5つの人材類型に対応した育成メニューを提供する。5つの人材類型は、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティとなる。

  • 「NECアカデミー for DX」のDX推進人材育成プログラム一覧

    「NECアカデミー for DX」のDX推進人材育成プログラム一覧

同プログラムは、ITベンダーなどに所属する高度な技術や専門性を有するIT人材ではなく、企業などにおいて専門性を活かしてDXを推進する人材の育成を目的としている。

NECは事業会社向けに同プログラムを提供し、受講者が希望する期間、人数、到達レベルなどを確認のうえ、個社ごとに育成カリキュラムを提案する。プログラムの受講期間は3~6カ月となり、提供価格(税抜)は受講者8名の場合で1000万円~となる。

また、同社は人材育成メニューの提供だけでなく、人材育成の戦略策定やプログラム受講後のDX文化の浸透も支援する。

同プログラムでは、遠隔ライブ研修やeトレーニングなどで知識を習得し、ワークショップや模擬演習(ケーススタディ)を通して自ら活用できるスキルの定着を図る。その後、専門家によるOJTや伴走型支援を受けながら実践経験を積むことで、業務で活用できる実践的なスキル習得を目指す。

  • 知識習得、ケーススタディ、実践を通じてDX推進人材の育成を進める

    知識習得、ケーススタディ、実践を通じてDX推進人材の育成を進める

例えば、データサイエンティスト育成プログラムのうち、データビジネスストラテジスト育成メニューでは、AIリテラシー教育やAIプロジェクトマネジメントなどの研修を実施する。

データ活用プロジェクトのPBL(Project Based Learning、課題解決型学習)を模擬演習として行った後は、データサイエンティストによるOJT支援の下で、自社の事業戦略に沿ったデータ活用の戦略策定や、戦略の具体化などの課題に取り組む。

  • データサイエンティスト育成プログラムの例

    データサイエンティスト育成プログラムの例

NECでは2019年にAIを社会実装する人材を育成するための「NECアカデミー for AI」を開講し、2021年からセキュリティやデザイン思考が学べる「NECアカデミー for DX」の提供を開始している。

今回、提供開始する新プログラムでは、これまでの人材育成プログラムのノウハウを生かして、身に付けたデジタルスキルのアップデートも支援する。具体的には、自己学習環境を提供するほか、イベントや交流会などのコミュニティ活動支援を実施する。

  • データサイエンティスト育成プログラムの例

    NECにおけるDX人材育成の考え方

DX推進では、自社に合った人材・ロールを取捨選択

NECがデジタル人材育成の支援に注力する背景には、政府によるデジタル田園都市国家構想がある。同構想の下、政府は地域の課題解決を牽引する「デジタル推進人材」を2026年度までに230万人育成する方針だ。現在、デジタル人材育成プラットフォームによる教育コンテンツの提供や、デジタル分野での教育訓練給付などの施策が推進されている。

  • 政府のデジタル人材育成への取り組み

    政府のデジタル人材育成への取り組み

NEC AI ・アナリティクス事業統括部 上席データサイエンティスト NECアカデミー for AI 学長の孝忠大輔氏(こうちゅうだいすけ)氏は、「すべての学生が、数理・データサイエンス・AIを学ぶ時代に突入する中で、既存のビジネスパーソンの多くは文系・理系に分かれた学生時代を過ごし、数理分野のスキルは確率・統計を少しかじった程度だ。世代間のデジタルリテラシー・スキルの格差拡大が予想される中、デジタル分野の人材育成が重要になる」と語った。

  • NEC AI ・アナリティクス事業統括部 上席データサイエンティスト NECアカデミー for AI 学長 孝忠大輔氏

    NEC AI ・アナリティクス事業統括部 上席データサイエンティスト NECアカデミー for AI 学長 孝忠大輔氏

それでは、デジタル人材の育成や個人のデジタルスキル習得にあたって、押さえるべきポイントはあるのだろうか?

DSSの人材類型では、各人材に関連する15のロールと必要なスキルの重要度を整理しているが、孝忠氏によれば「自社に15のロールに相当する人材をすべて揃える必要はない」という。

  • 「デジタルスキル標準」の人材類型におけるロール×スキルのマッピング

    「デジタルスキル標準」の人材類型におけるロール×スキルのマッピング

「事業内容によっては、特定ロールの業務を外注するケースもある。自社にとって必要なロールを取捨選択し、自社に合った人材育成をすべき」と孝忠氏は指摘した。

また、孝忠氏によれば、DSSで定義される「DX推進スキル標準(DSS-P)」では、IT人材に求められるスキルやキャリアを示した「ITSS+(ITスキル標準プラス)」におけるレベル4を想定しているという。レベル4は、「独力で業務を遂行することが可能であり、後進人材の育成も可能なレベル」であり、まずはそのレベルが習得するデジタルスキルの目標になる。